三陸沖の地震を受けて:後発地震注意情報との向き合い方(コラム再掲)

本日(令和8年4月20日),16時52分に三陸沖を震源とする地震(M7.7)が発生しました.これを受け,気象庁は19時30分に「北海道・三陸沖後発地震注意情報」を発表しました.この状況を踏まえ,過去に執筆したコラムを再掲します.本稿は,過去に厳冬期の地震を受けて執筆したものですが,ここで論じた「後発地震注意情報との向き合い方」は,季節を問わず重要な論点です.特に,「日常にどのような備えを組み込んでおくか」という視点は,今回の状況においても改めて考える必要があります.


12月8日深夜,青森県東方沖を震源とするマグニチュード(M)7.5の地震が発生しました.津波警報が発表され,避難は厳冬期の深夜という厳しい条件の中で行われました.自動車で避難する人が多かったとみられ,北海道や青森の各地で渋滞の発生が報告されています.厳冬期に徒歩で避難した場合,その後の居場所にリスクがあることを住民が織り込んで行動した結果かもしれません.

この地震を受けて,「北海道・三陸沖後発地震注意情報」が運用開始後初めて発表されました.巨大地震の可能性が相対的に高まったとして,7日間,注意を呼びかけるものです.将来の巨大地震は,注意情報が出ないまま突然発生する可能性の方が高いことも,踏まえておく必要があります.「近日中に巨大地震が発生するなら」と真剣に考えて見えてきた備えを,日常に組み込んでおくことが重要です.この点は,南海トラフ地震臨時情報(注意)とも共通しています.  

とりわけ,今回の地震で実際に直面した厳冬期の津波避難の難しさを踏まえれば,その備えは優先課題の一つと言えるでしょう.北海道では寒冷地という地域特性を踏まえ,真冬の津波避難に伴う低体温症のリスクについて検討が行われています.

令和4年に公表された日本海溝・千島海溝沿いの巨大津波に関する被害想定では,津波から逃れた後,屋外で長時間寒冷な環境にさらされ,屋内への二次避難が困難な状況を想定し,「低体温症要対処者数」を最大で約6万6千人と試算しています.あわせて,低体温症による災害関連死を,①津波に巻き込まれて水に濡れる場合,②津波避難後に寒冷な環境にさらされる場合,③停電による暖房の喪失に伴う場合−の3つに整理しています.

12月16日午前0時をもって,特別な注意の呼びかけ期間は終了しましたが,事前防災を継続的に前進させていく必要性は変わりません.また,この問題を,他の地域でも検討すべき論点として位置づけることが重要です.令和6年能登半島地震では,避難生活の中で低体温症が関係した災害関連死が複数確認されています.厳冬期の津波避難や避難生活における低体温症への備えを,この機会に前進させるべきではないでしょうか.

(産経新聞夕刊令和7年12月22日掲載)

8月7日,「南海トラフ地震臨時情報」のガイドライン(運用指針)が改定されました.この情報は昨年夏,多くの観光客や帰省客で各地がにぎわう中,初めて政府から発表されました.しかし,当時は受け止め方や行動判断が難しく,戸惑った方も少なくなかったはずです.今回の改訂は,その経験を踏まえたもので,私も政府の委員の一人として見直しに関わりました.では,この「臨時情報」とは,どう向き合うべきでしょうか.その視点を共有するため,本稿を執筆しました.

平成23(2011)年3月11日の東日本大震災の2日前,プレート境界付近でマグニチュード7クラスの地震が発生していました.一部の保育園や高齢者施設では,津波避難の方法や施設の施錠ルールを見直し,震災当日に全員が無事避難できた事例もあります.しかし,そうした事前対策は社会全体には広がりませんでした.この課題意識を背景に,令和元(2019)年に創設されたのが「臨時情報」です.

この情報の本質は,社会全体で「本気の事前防災」を後押しすることにあります.南海トラフ地震は突然発生する可能性の方が圧倒的に高い――だからこそ,臨時情報が出たときの行動計画づくりを目的化してはいけません.むしろ,「もし近日中に南海トラフ地震が発生するなら何をしておきたいか」を改めて真剣に考え,その中から平時に実行しておけることを一つでも多く選び,日常の業務や暮らしに組み込んで前倒しで実行しておくことが重要です.

そうしておけば,臨時情報が出ても慌てる必要はありません.発表時には,これまでの備えを確認し,必要に応じて補足するだけでよい――これが理想です.臨時情報は最後の一押しの契機として活かす程度にしておくこと.それこそが「本気の事前防災」としてのこの情報との正しい向き合い方です. この情報は地震予知ではありません.臨時情報を契機に自宅の耐震化に着手する――その一歩を後押しすることも,この情報の価値です.たとえ発表から間をおいて完了することになってもまったく問題ありません.住民,行政機関,事業者など,多様な主体がこの制度の趣旨を正しく理解し,本気の事前防災に取り組まなければ,突然発生する南海トラフ地震に深刻な被害を招くことになりかねません.

(産経新聞夕刊令和7年8月18日掲載)