私たちの二番目の武器は、ATGC四文字の並びである配列を書き込むことで、DNA分子の振る舞いを思い通りに制御する技術を有していることです。例えば、長さの異なるDNA鎖を巧みに組み合わせて、相補的なDNA鎖の間での二重らせんの形成と解離を自在に操ってやれば、DNAを使って論理演算をすることができます。つい最近では、アメリカの研究者らによって、手書き文字を画像認識できるAIがDNA分子だけを使って構築されました(K.M. Cherry, L. Qian, Nature 2018, 559, 370)。このような研究領域は「DNAコンピューティング」と呼ばれています。さらにはDNAの配列を工夫して、天然には存在しないDNAの枝分かれ構造をつくらせることで、DNAを丸太のように取り扱い、分子サイズのいかだやログハウスを自発的に組み立てることもできます。こちらの研究領域は「DNAナノテクノロジー」と呼ばれています。いずれの分野においても、私たち人間が行っているのは、綿密に設計した配列をDNAの鎖にあらかじめ書き込んでおくことだけです。あとはDNA分子を直接触ったりしなくても、DNAは自分に書き込まれた情報にしたがって、勝手に相手の鎖を見つけて動き出し、計算をしたり、決まった構造に組み上がったりするのです。当研究室の名称につかった「知能分子=知能を持った分子」という言葉は、これにちなんでつくりました。
今日のDNAナノテクノロジー分野で最も精力的に研究されているのが、DNAウィルスの非常に長い1本鎖ゲノムを折りたたんで、分子の織物を織り上げる「DNAオリガミ法」です(P.W.K. Rothemund, Nature 2006, 440, 297)。私たちもこの手法を早くから取り入れ、世界に先駆けて、DNAを材料にした様々な有用な分子デバイスを開発してきました。(2020年 NHK Eテレ「サイエンスZERO」、2021年 講談社ブルーバックスウェブサイト)
→DDSキャリアをつくる
→診断薬をつくる
→人工抗体をつくる
また、DNAコンピューティング、DNAナノテクノロジーを活用して、DNA以外の生体分子を高度にプログラミング・制御することで(→DNAをつかう)、さらに複雑な「分子システム」をつくりあげることにも成功しています。