DNAをつかう〜バイオテクノロジーと医用工学〜

DNAに人工的に書き込んだ情報をそのまま遺伝子として使えば、それはバイオテクノロジーの領域になります。私たちはこれまでに、細胞の遺伝子組換えによく用いられるプラスミドを独自の特殊なPCR(突出末端生成PCR法)で完全合成することに成功し(ChemBioChem, 2008, 9, 2120)、それ以上の酵素反応を必要としない、非常に簡便な遺伝子組換え法(ライゲーション非依存クローニング法(LIC)のひとつ)を開発しています(Molecules, 2012, 17, 328)。

人工生命をつくる

一方でDNAの鎖が、自分に書き込まれた配列情報にしたがって正確に相手を識別しながら二重らせんを形成するしくみは、様々な機能を有する生体分子や分子材料をより高次に組み立てるための「分子糊(のり)」として利用することもできます。さらに、私たちの有するDNAコンピューティングDNAナノテクノロジーの技術(→DNAをプログラミングする)を活用すれば、その分子糊に「インテリジェント性(=知能)」を付与することまでできるのです。こうやって、細胞内ではたらく「分子モーター」をDNAを使って高度に制御しているのが、下記の共同研究課題です。

分子ロボットをつくる
人工筋肉をつくる

私たちが利用しているのは、有名なDNAの二重らせんだけではありません。一部の特殊な配列をもつDNA鎖は、三本目の鎖が二重らせんにからまったDNA三本鎖や、四本の鎖が対称にからまりあったDNA四重鎖なども形成できることが知られています。とくにDNA四重鎖の一つである「グアニン四重鎖(右図)」は、最低三文字のGが並んでいるだけでNa+やK+の助けをかりて非常に迅速に形成され、二重らせんと比較してもはるかに高い安定性を示すことがわかっています。自然界では染色体の末端に位置するテロメア領域に多く存在しており、細胞の寿命を決めているとも考えられているグアニン四重鎖を活用して、最近私たちは「体液を感知して瞬時に固化するヒドロゲル材料(=DNA四重鎖ゲル)」を開発しました(特許第6562410号、Chem. Asian J., 2017, 12, 2388)。

生理食塩水だけでなく、人工汗液、唾液、涙液、さらには細胞培養のための液体培地でも固化することが確かめられているこのDNA四重鎖ゲルは、一般的なDNA自動合成機を使った核酸固相合成(→DNAをつくる)ではなく、すでに広く化粧品などへの添加物として利用されているポリエチレングリコール(PEG)を担体としたDNA液相大量合成法を活用することで、DNAを含む材料としてはこれまでの何千倍もの量を合成することが可能となっています。K+の溶液にポリマーの溶液を滴下すれば、人工イクラとしてよく用いられるアルギン酸のゲルのように、ビーズや紐状など、自在に成形することもできます。

PEGとDNAだけからできたこのDNA四重鎖ゲルは、究極の体にやさしい材料であるだけでなく、

  • DNAは天然由来の成分であり、「生分解性」がある
  • DNAコンピューティングの技術を活用でき、「インテリジェント性」がある
  • グアニン四重鎖の形成は可逆であるため、「自己修復性」がある

など、今後の医用材料としての展開に役立ちそうな数多くの特長を有しています。i-motifという、CだけからなるもうひとつのDNA四重鎖(右図)を利用すれば、健康な皮膚のpHである弱酸性環境で特異的にゲル化する材料もつくれます(ACS Macro Lett., 20187, 295)。私たちはこれから、製薬会社、化粧品会社、あるいは他大の医学部、薬学部との共同研究も交えながら、これらのヒドロゲル材料を生体に応用し、マウスに打ち込んだ際の体内動態などを調べていく予定です。

DDSキャリアをつくる
人工臓器をつくる

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