DNAオリガミ分子機械を活用した人工抗体の開発

私たちがこれまでに開発したDNAオリガミ構造体のうち、もっともうまくいったのは「分子を摘まんで閉じるナノメカニカルDNAオリガミデバイス」でしょう(Nature Commun. 2011, 2, 449)。6本のDNA二重らせんを束ねてつくったおよそ幅20 nm、長さ170 nmの棒が2本、自由に回転する支点1カ所でつながってできているDNA Pliers(ペンチ)と名付けたこの分子デバイスは、ターゲット分子を認識するための適切な化学修飾を施すことで、例えばタンパクならば、たった1分子のターゲットを摘まんで、開いたX字型から平行に閉じた=字型に変形することができます(右図)。施す化学修飾を様々に変えることで、DNA Pliers ひとつで分子量15万の巨大なタンパク(具体的にはIgG抗体)から、理論的には最も小さな原子である水素イオン(H+)まで、幅広いターゲットの存在を単分子レベルで視覚的に検出することに成功しました(科研費NEWSレター)。

この2本の棒で協同的に1分子をつかまえるしくみは、どこか天然の抗体に似ているということで、現在私たちは、このようなDNAオリガミを使った人工抗体の開発にとりかかっています。DNA Pliers(あるいはその進化形のDNA Chopsticks(お箸))に抗体の抗原認識部位を組み込むことで、元の抗体の高い抗原認識能を維持しながら、抗原との結合による大きな構造変化を利用して、抗原の存在を分子単位で可視化することができます。DNAオリガミの「分子複合体としては比較的大きい」という特性を活かせば、天然酵素の活性調節のしくみを模倣した「アロステリック人工抗体」もつくれるでしょう。

PDB: 3GAV

将来的に「抗体を認識して結合するナノメカニカルDNAオリガミデバイス」ができれば、病理診断や感染症医療の現場で重宝するであろう「人工二次抗体」も開発できるかもしれません。

注目を集めていながら、なかなか実用化に結びつかないDNAオリガミ技術。その一番乗りをめざして、私たちは日々研究にとりくんでいます。

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