分子ロボットをつくる

ロボット工学を研究するためには機械工学科に行かなければならないと思っていませんか?いいえ、化学を専攻してもロボットは研究できるんです。

2016年のノーベル化学賞は、「分子機械の設計および合成」に与えられました。これらの「分子機械」は、ロボットにおける「モーター」や「ジョイント・関節」にあたる部品を分子で実現しようとしたものです。さらにその先をめざして、自律的な最小限のロボットを構成するための三要素である「センサー(ものを感じる)」、「プロセッサー(情報を処理する)」、「アクチュエーター(動きをつくりだす)」の全てを分子で実現し、ナノサイズの「分子ロボット」へと組み立てることをめざす、「分子ロボティクス」という研究分野が生まれつつあります。日本はこの研究分野の誕生国とも言えるほど早くからこの分野に取り組んでおり、現在でも世界の研究の最先端を走っています。私たちの研究グループも、分子ロボットを研究する世界初のコミュニティ「分子ロボティクス研究会」に立ち上げ時から深くかかわり、この分野の発展に協力してきました。

そしてその成果の一つが、北海道大学・角五彰先生名古屋大学・浅沼浩之先生との共同研究で実現した、世界初の「分子群(ぐん)ロボット」です(Nature Commun., 2018, 9, 453)。

関西大学・北海道大学共同プレスリリースより

ロボット工学の研究対象の一つに、鳥や魚が群れをつくる仕組みを再現する「群ロボット」があります。私たちはこれを、細胞の中で輸送網として使われている分子モーター(アクチュエーター、角五先生が専門)、光で構造変化するアゾベンゼン分子(センサー、浅沼先生が開発)、さらに私たちのDNA計算系(プロセッサー)を統合することにより、「分子」で再現することに成功したのです。

下の動画は、微小管(microtubule, MT)という細胞骨格の一つでつくった「分子群ロボット」が、キネシンという分子モーターを蒔いたガラス基板上を走り回っているところに、特定のDNA情報を与えることで環状に集合し、また別の情報を与えると解散する様子を顕微鏡で観察した様子です。まるで生きているみたいに見えますが、1本1本の「ロボット」は太さ25 nmしかない分子集合体なんですよ。

これらの研究がいつの日か医療用ナノマシンの実現へと結びつくことを夢見ながら、私たちはこれからも共同研究を推進し、もっと複雑な動きをする分子ロボットや、これらをより精密にコントロールする方法の開発をめざしていきます。

プレスリリース(2018年2月1日)
日刊工業新聞電子版の記事
イギリス王立化学会(RSC)のオンライン機関誌 “Chemistry World”の記事
月刊化学 2018年6月号

講談社ブルーバックスウェブサイト連載 2021年10月30日(土)

人工筋肉をつくる

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