熊本地震10年 災害関連死と問われる日常
平成28年4月の熊本地震から10年が経過しました.この地震は,私にとって災害関連死研究の出発点となりました.発災直後に被災地を訪れた際,避難所だけでなく,自家用車や自宅で生活する人々の姿が印象に残りました.当時,「関連死の多さ」が指摘されていましたが,それは直接死の多さではなく,被災者の多さに左右されると考えるようになりました.
熊本地震では最大18万人が避難生活を余儀なくされ,阪神・淡路大震災に次ぐ規模となりました.4月中旬の穏やかな気候や,震度7の揺れが28時間差で発生し余震が続いたことが,多くの住民を自宅以外での生活へと向かわせました.穏やかな気候は一見好条件に見えますが,生活拠点の多様化を招き,支援が行き届きにくく,異変にも気づかれにくい環境が生まれました.ただし,車中泊や自宅での生活そのものが問題なのではなく,被災者に負担のかからない生活環境をいかに確保できるかが問われています.
災害関連死は,高齢者や持病のある人だけの問題ではありません.震災前に自立していたとみられる人々も,避難生活の中で体調を崩し命を落としています.また,災害時には,知らず知らずのうちに無理を重ねてしまう人が生じることにも目を向ける必要があります.しかし,こうした実態は十分に把握されていません.
災害関連死の実態を把握するためには,多くの事例を社会で共有する必要があります.ご遺族の申し立ては,被災地で何が起きていたのかを明らかにする重要な機会です.認定の有無にかかわらず,背景を記録し将来に生かす視点が欠かせません.申し立てが難しい場合には,メディアが聞き役となるなど,多様なチャンネルを用意することも重要です.
災害関連死は,被災後の対応だけでなく,日常のあり方によっても大きく左右されます.熊本地震が示したのは,誰もがそのリスクにさらされうるという現実です.今後に向けて求められるのは,災害時の対応を機能させるためにも,そのリスクを生まない日常をあらかじめ築いておくことではないでしょうか.
(産経新聞夕刊令和8年4月20日掲載)
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