本気の事前防災、本気の災害対応で災害関連死問題に挑む
5 万 2 千人――これは 2025 年 3 月 31 日に政府が公表した南海トラフ地震の新想定における「災害関連死」の死者数です。阪神・淡路大震災から 30 年を経て、ようやく災害関連死を定量的に見積り、備える段階に至りました。とはいえ、実際の災害時にその全容をリアルタイムで把握し、被害軽減に結びつけることは依然として困難です。
災害関連死が正式に公表されるのは、市町村による認定後です。認定には、死亡の経緯に関する調査などが必要で、発災から数か月を要するのが通例です。実際、令和 6 年能登半島地震では初回の公表までに約 6 か月を要しました。現在も全容は明らかになっていません。それまでは「関連死の疑い」として一部が報道されるのみです。この時期、市町村は個人の特定を避けるため情報共有に慎重となり、県にも十分な情報が届きません。石川県が公表する関連死(疑い)の人数も 5 月末まで 15 名のままでした。
一方、初期に活用できる指標の一つが「最大避難者数」です。数日以内に把握可能なこの数値を用いれば、災害関連死の規模を早期に予測できます。過去の災害では、避難者が 10 万人規模で関連死は 50 人、20 万人で 200 人程度といった一定の関係が見られました。また、死亡届出数から超過死亡を推定する手法もありますが、これは発災から約 3 か月後でなければ使えず、対策に生かすには時機を逸する場合が少なくありません。
こうした予測手法は初期の方針を立てるうえで有効ですが、限界もあります。令和 6 年能登半島地震はその典型例です。同地震の関連死件数は、最大避難者数から推定される規模を大きく上回りました。発災 10 日ほどで私は 100 人超の可能性を示しましたが、300 人超の予測はできませんでした。過去にない条件が重なると、「避難者数で関連死を見積もる」モデルは限界を露呈します。
このように、災害時に関連死の全容をリアルタイムで予測し、被害の軽減につなげるには、報道や死亡届出数など、不確かで断片的な情報を的確に読み解く力が求められます。そのためにも、災害情報学のさらなる深化が期待されます。
(災害情報学会ニュースレター,No.102,令和7年7月掲載)