こんにちは!関西大学社会安全学部 奥村ゼミ3回生の星野理です。
私は今年4月に奥村ゼミに配属されたばかりなのですが、第44回日本自然災害学会学術講演会(9月18日〜9月19日札幌開催)で口頭発表をするという大役を任せていただく機会を得ました。今回は、その経験から得た多くの学びを皆さんにシェアしたいと思います。
奥村ゼミからの発表一覧
- 久世真侑子,奥村与志弘,高橋佑介,令和 6 年能登半島地震津波における避難開始行動の特徴分析,第44回自然災害学会学術講演会.A-4-4,2025年9月18日.北海道教育大学(北海道県札幌市).
- 上野 直人,八木 亮介,奥村 与志弘,星野 理,令和6年能登半島地震における災害関連死認定事例にみる停電影響の実態,第44回自然災害学会学術講演会.A-4-5,2025年9月18日.北海道教育大学(北海道県札幌市).
- 大槻 帆乃香,奥村 与志弘,大野 哲之,気象現象別にみた風水害死者数の経年変化とその要因分析,第44回自然災害学会学術講演会.A-2-2,2025年9月18日.北海道教育大学(北海道県札幌市).
- 李昊程,奥村 与志弘,中国における地震災害と交通事故の発生状況に関する横断的分析,第44回自然災害学会学術講演会.A-2-1,2025年9月18日.北海道教育大学(北海道県札幌市).
突然の代役!学会発表への道
きっかけは先輩の体調不良でした。
もともと今年の春頃から先輩が進めておられる研究を手伝わせてもらっていました。研究は順調に進んでいたのですが、学会の2か月前に先輩が体調を崩され、急遽、代わりに発表してくれないかとお話をいただいたのです。
頭が真っ白になりました。私は4月にゼミに入ったばかりで、学会が何かも分かっていませんでした。研究のプロフェッショナルが集まる学会で、私が発表するなんて想像もできず、不安でいっぱいでした。
それでも、発表予定の研究を一緒に進めてきた上野先輩(修士1年)や八木先輩(修士2年)の丁寧な指導を受けながら、スライド作成や原稿の推敲を重ねました。自分では「これで完璧!見やすいはず!」と思ったスライドでも、先輩方からは「ここはもっとこうした方が伝わる」「この表現は見にくいかも」といったアドバイスが。自分では気づけない「伝えるための工夫」を、的確に鋭くご指摘いただきました。
発表練習では、奥村ゼミの久世先輩(修士1年)と大槻先輩(修士1年)をはじめ、奥村ゼミの多くの先輩方や他ゼミの大学院生からも貴重なアドバイスをいただきました。ゼミを越えたサポート体制に本当に勇気づけられました。
いざ札幌へ!先輩の研究を胸に
学会前日、私と同じく研究発表を行う久世先輩・大槻先輩とともに、飛行機で北海道へ向かいました。新千歳空港に到着すると、なんと研究室OBの山崎健司さんが出迎えてくださいました。山崎さんは今春に修士課程を修了し、奥村ゼミを卒業されたばかりの先輩です。思いがけない温かい出迎えに驚きました。美味しいご飯に連れて行ってくださり、翌日の発表に向けた最終のアドバイスもいただきました。先輩方の優しさと、ゼミの縦のつながりの温かさを、つくづくありがたいなぁと感じました。
そして迎えた学会当日。会場は北海道教育大学札幌校。周囲を見渡せば大学の先生や研究者、大学院生ばかり。学部3回生の私は明らかに最年少です。場違いではないかと心臓の鼓動がどんどん早くなるのを感じました。
発表直前の緊張の中で、奥村先生が私にこう声をかけてくださいました。
「優秀発表賞を取れるくらいにしっかり準備された研究だから、自信をもって堂々と発表しなさい」
そのお言葉に身が引き締まる思いでしたが、不思議とプレッシャーには感じませんでした。この研究が、上野先輩たちと緻密な努力を積み重ねてきた結晶であることを私は誰よりも知っていたからです。「自信を持つべきは”自分”ではなく、”この研究そのもの”なのだ」と思えました。先輩たちとのこれまでの努力が、私の不安を大きな自信に変えてくれたのです。
この一言で、「よし、やるしかない!」と、覚悟が決まりました。

10分の発表と、試練の質疑応答
発表時間は10分。練習の成果もあり、発表はなんとか無事に終えることができました。しかし、試練はその後の質疑応答でした。
先輩と相談して想定問答を用意していたのですが、実際の質問はそれらとはまったく異なるものばかり。災害関連死研究の本質を突くような、非常に鋭く、深い質問の数々に頭が真っ白になり、しどろもどろになりました。自分の引き出しの少なさ、対応力のなさを痛感しました。
結局、私の様子を見兼ねられたのか、奥村先生が助けてくださいました。悔しさと安堵が入り混じった「忘れられない5分間」を、何とか切り抜けました。発表内容に関する表面的な知識だけではダメだと、文字通り”痛感”しました。
嬉しい出来事もありました。セッション終了後、一人の研究者が私の元へわざわざ足を運んでくださり、「面白い研究ですね」と、さらに詳しい質問をしてくださったのです。そして、名刺までいただくことができました。「自分の発表が、誰かの心に少しでも届いたのかもしれない。」そう思えました。これもまた初めての貴重な経験になりました。

研究発表だけじゃない!北海道での学び①「寒地土木研究所での防災イベント」
学術講演会(9月18-19日)の翌日、(国研)土木研究所 寒地土木研究所で開催された学会主催のオープンフォーラムにも参加しました。雪国・北海道ならではの降雪予報システムや、立体地図模型を使った河川氾濫シミュレーション、河川氾濫や津波に関する水理実験などを見学しました。研究がどのように社会の安全を守る技術に応用されているのかを肌で感じることができました。

研究発表だけじゃない!北海道での学び②「北海道大学 中嶋ゼミとの合同ゼミ」
さらにこの日は、北海道大学・中嶋ゼミとの合同ゼミにも参加させていただきました。中嶋ゼミでは、建築学のアプローチから人的被害を減らす研究をされており、社会安全学を学ぶ私たちとは違ったアプローチでの議論がとても新鮮でした。自分の研究分野を多角的に見つめる良い機会となりました。

研究発表だけじゃない!北海道での学び③「有珠山での実地調査」
最後に訪れたのは、2000年の有珠山噴火による「災害遺構」です。北大・中嶋ゼミの皆さんとともに現地調査を行いました。
噴石で破壊された建物や、地盤変動によって分断された道路が、何のフィルターもなく目の前に広がる光景はまさに圧巻でした。災害のエネルギーのすさまじさと自然の脅威を肌で感じるとともに、ありのままの姿で災害の記憶を後世に伝えることの意義を実感しました。
これらの遺構は「保存」ではなく、被災直後の状態から人の手を一切加えず、時間の経過とともに建物が朽ち、植生が覆っていく姿をそのまま残している点に特徴があります。いわば、災害の爪痕が自然へと還っていく過程そのものを記録している場所なのです。その静かな変化が、災害の記憶をより深く語りかけていました。

「三重跳び」の経験をバネに
今回の挑戦は、私にとって「縄跳びをしたことのない人が、いきなり三重跳びに挑戦する」ようなものでした。
学内での研究発表の経験すらない学部3年生の私が、いきなり全国の研究者が集う学会で口頭発表。質疑応答では自分の知識不足、勉強不足を突きつけられ、悔しい思いもしましたが、この挑戦があったからこそ、自分の現在地をはっきりと知ることができました。
今はまだ前跳びすらおぼつかない状態です。ですが、一歩ずつ、着実に練習を重ねて実力をつけていきたいと思います。支えてくださった先生、先輩方、そして北海道で出会ったすべての方々への感謝を胸に、目の前の研究に真摯に取り組んでいきたいと思います。そして、次は「自分がメインの研究を学会で発表すること」を目標に日々精進していきます!
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。