こんにちは!奥村ゼミ4回生の山形 啓太です。
先日、日本BCP株式会社が実施した、災害時を想定したドローンによるガソリン輸送の実証実験に参加しました。
同社は、企業や自治体の事業継続を支援するため、非常用の発電機や燃料を提供し、タンクローリーによる緊急時の燃料配送を行うなど、災害時のエネルギー供給体制の整備に力を入れている会社です。今回の実証実験も、そうした取り組みの一環として行われました。
実験の目的は、災害時に道路の寸断や渋滞などで燃料輸送が困難になる事態に備え、輸送手段を多角化することにあります。災害対応では、これまでヘリコプターによる空輸は行われてきましたが、ドローンによる燃料輸送はまだ実用段階には至っていません。実証実験が行われていること自体が、技術や制度の面で検証が必要な段階にあることを示しています。
▶︎ガソリンのような危険物は、落下による爆発や火災のリスクがあるため、高い安全性が求められます。そうした中で、あえてガソリンのドローン輸送に挑戦した日本BCP株式会社の取り組みに強く感銘を受けました。ドローンによる高リスク物資の輸送は全国的にも事例が少なく、今回の実証実験は防災に向けた貴重な一歩だと感じました。また、その限られた実験の現場に立ち会えたことは、非常に貴重な経験であり、大きな喜びと興奮を覚えました。
1.神奈川県松田町・寄(やどりぎ)地区
今回の実証実験は、神奈川県松田町の寄(やどりぎ)地区で行われました。「寄」と書いて「やどりぎ」と読むのは少し珍しいですが、その由来には、人々が木の下で寄り合いをしていたことから「寄木(やどりぎ)」と呼ばれるようになった、という説があるそうです。
この地区では、川を渡る手段として「田代橋」が唯一のルートになっています。そのため、災害でこの橋が崩落すれば、対岸にある集落や避難所へ車で物資を届けることができなくなります。今回の実験では、こうした状況を想定し、ドローンによってガソリンを安全に輸送できるかどうかが検証されました。
▶︎山あいに広がる自然豊かな地域で、空気も澄んでいてとても気持ちの良い場所でした!


2.神奈川県松田町・寄(やどりぎ)地区
今回使用されたのは、日本製の大型ヘキサコプター「Surveyor-X」です。現在、世界のドローン市場では中国製が全体の7〜8割を占めており、日本製の大型ドローンは非常に珍しい存在です。
機体の寸法は2760×2000×585mm、重量は約50kgで、最大70kgまでの荷物を輸送することができます。飛行可能時間は約10分で、そのたびにバッテリーの交換が必要です。
ドローンには小型カメラが搭載されており、操縦者が目視できない距離まで離れても、リアルタイムの映像を見ながら操作できます。物資の輸送にはロープを使用し、人の手でロープを通す必要はありますが、物資の切り離しはスイッチひとつで簡単に行える設計になっていました。
▶︎ゼミ室にある小型ドローンと比べてはるかに大きく、実物を見て圧倒されました。現在はバッテリーの制約で飛行時間が10分に限られていますが、技術の進歩で飛行時間が延びれば、ドローン輸送がより現実的な手段になると感じ、大きな可能性を感じました!


3. ドローンのバッテリー充電に使用された発電機
今回の実証実験では、ドローンのバッテリーを現地で充電するために、LPガスとガソリンのどちらにも対応した発電機が使用されていました。LPガスはガソリンに比べて長時間の使用が可能で、目安としてLPガス5kgで約8時間の発電ができるそうです。ただし、車の燃費と同様に、発電時間は出力条件によって前後するのではないかと思いました。
また、LPガスはガソリンよりも保存期間が長く、日常的に家庭用ガスとしても使用されているため、災害時にも比較的入手しやすいというメリットがあります。
実際にこの発電機を使用したところ、20分間でドローンのバッテリーを約74%から94%まで充電することができていました。
▶︎ドローンの飛行時間が短い分、現場でのバッテリー充電は欠かせないと実感しました。さらに、ガソリンとLPガスの両方に対応している発電機であれば、災害時でも燃料の調達に柔軟に対応できるのではないかと思いました。

4. ガソリン輸送に使用された強化梱包材
今回の実証実験では、ドローンでガソリンを輸送する際に、携行缶を強化梱包材に収めて運搬する方法が採用されました。これは、万が一荷物が落下した場合でも、燃料の漏洩や爆発などのリスクを最小限に抑えることを目的としています。
使用された梱包材は、もともと兵器や通信機器などの精密・危険物の輸送に使われている高耐久仕様で、2メートルの高さから落としても中身が損傷しないよう設計されているそうです。
▶︎この強化梱包材が軍事用途に由来すると聞き、驚きました。ガソリンの空輸には、それほど高い安全性が求められるのだと実感しました。

5. 実証実験の様子
今回の実証実験では、ドローンによる物資輸送が合計4回実施されました。輸送距離はおよそ500メートルで、それぞれ異なる物資が使用されました。これは、物資の重さや形状によるドローンの挙動の違いを検証するためです。
- 1回目:水20L入りの携行缶(約20kg)
- 2回目:中身の入っていない5LのLPガスボンベ
- 3回目:水20Lの携行缶2本を袋に入れたもの(約40kg)
- 4回目:強化梱包材に入れた20Lのガソリン(40kg超)
ドローンの操作は、離陸から一定の高度・位置までが手動、そこから中間地点までは自動運転、着陸時に再び手動に切り替えるという運用方法でした。自動運転の方がブレが少なく、バッテリーの消耗も抑えられるそうです。
3回目の輸送では、自動運転への切り替え時にドローンが荷重に耐えきれず、飛行が不安定になりました。手動運転中は問題なく飛行していたため、3回目と4回目は全て手動での輸送に切り替えられました。また、3回目の輸送時にはフックが荷重に耐えられず、途中で交換される場面もありました。
輸送にはロープを用いた吊り下げ方式が採用されており、着陸できない場所にも物資を届けられるという利点があります。さらに、ドローン本体に直接荷物を搭載する方式に比べて、より大きく重い物資の輸送が可能です。ただし、ロープで吊った物資は風の影響を受けやすいという課題もあります。
▶︎ドローンの操作モードの切り替えが、スイッチひとつで簡単に行えることに驚きました。また、吊り下げた物資が軽いときは風でぐるぐる回ってしまい、見ていて少し不安にもなりました。しかし、ドローン本体は安定しており、フライトコントローラーが揺れを制御していると伺い、高い技術力に安心感を覚えました。



6. 被災状況の確認に使用されている小型ドローン
現場には、被災状況の確認や監視用途に使用される小型ドローンも来ていました。本体は片手で持てるほど軽く、またバッテリーも1個あたり約3kgとダンベル程度の重さです。このバッテリーを2個搭載して飛行時するそうです。
物資輸送用のドローンと比べて軽量なため、バッテリーの消耗が少なく、1回の飛行で約50分の稼働が可能です。さらに、充電器に有線ケーブルを接続した状態での飛行もでき、実験では最大24時間の連続飛行が実現されたとのことです。
ただし、有線ケーブルは飛行中に高温になるため、接続中は警告音が鳴る仕組みになっています。安全面から、実際の運用では約10時間の連続飛行が推奨されているようです。
▶︎ 自分は卒論で「津波災害時の早期避難のためのドローンの活用可能性」について研究しています。私の研究では、まさにこの小型タイプのドローンが有効だと思いました。有線ケーブルを接続することで長時間の連続飛行が可能であると知り、防災行政無線やアドバルーンのように空中に留まって情報発信を行う用途にも応用できるのではないかという気づきを得ました。

7. 余談:ポリタンクの法改正と軽量化
以前は軽油を輸送する際、重たい金属製容器を使用する必要がありましたが、令和6年の法改正により、軽量なプラスチック製ポリタンクでの輸送が可能となりました。ポリタンクは金属製に比べて軽く、傷もつきにくいとされています。
▶︎ドローンの機能向上だけでなく、こうした容器の軽量化も輸送効率の向上につながることを実感しました。技術と制度の両面から進歩が進んでいるのだと感じました。

実証実験の見学を終えて
今回の実証実験を通じて、ドローンによる物資輸送の現状と課題を実感するとともに、今後の可能性にも大きな期待を抱きました。
能登半島地震では、すでにドローンによる物資輸送が行われていますが、ガソリンのような危険物や重量物の輸送には、依然として技術的・制度的な課題が残されていることを学びました。特に、バッテリーに関する課題は、物資輸送だけでなく、被災状況の確認や津波避難の情報伝達など、さまざまな場面で大きな影響を与えると感じました。
実際の現場に足を運ぶことで、机上では得られないリアルな知識と実感を得ることができたのは、非常に貴重な経験でした。今回の学びを、今後の研究にも必ず活かしていきたいと思います。
実証実験のあとは、小田原でおいしい昼食をいただきました。お刺身も焼き魚も最高でした!一井先生、ごちそうさまでした。
