執筆者:前川未有(奥村ゼミ3回生)
はじめに
皆さんは災害などの非常時に備えてどのようなものを備蓄されていますか?乾パン、アルファ化米、ビスケットなどでしょうか。なんと南あわじ市には3万5千食分の「そうめん」が非常食として備蓄されているそうです。奥村先生からこの話を聞いて、「そうめん」に興味を持ちました。是非、この「そうめん」備蓄からこれからの防災のあり方を考えてみたいと思い、卒業研究のテーマにしました。研究の第一歩として、現地の製麺所に聞き取り調査を実施してきました。
そうめん作りの伝統とこだわり
10月18日午後3時頃、柏木製麺所の柏木さんを訪ねました。作業場で柏木さんは2人の仲間と手際よく、乾燥を終えた長い麺を切り、紙の帯を巻いて束にしたそうめんを箱に詰めておられました。柏木さんは手を止めることなく、真剣な表情のまま、「毎日、深夜2時に始まるそうめん作りの最終工程だ」と教えてくださいました。そして、しばらくしてから手を止めて、「少し黄色がかっているのが判るか」とこの日できたそうめんを私に見せてくださいました。私には目を凝らしてもいつも見ている白いそうめんとどう違うのかまったく判りませんでした。柏木さんによると湿度が高い日に製造されるそうめんは理想の白にはならないのだそうです。商品価値には影響しないそうなのですが、プロとして納得がいかない様子で悔しい表情を浮かべておられたのが印象的でした。
一連のそうめんの製造工程についても、使用されている道具やその使い方、さらには他の有名なそうめんの製造方法との違いなどの話を交えながらお話ししてくださいました。その道具の一つひとつが独特の表情を持っており、連綿と続いているそうめん作りの歴史を物語っていました。南あわじの伝統的な製麺技術はそうめん職人たちの手によって江戸時代から継承されているのだと聞いて驚きました。現在、南あわじ市には製麺所が12あるのだそうです。
非常食として有効なそうめんの性質
さて、ではなぜそうめんが非常食に適しているのでしょうか?それは、2度梅雨を越したそうめんを古物(ひねもの)と呼び、新物と区別して、高値で販売されていることに答えが潜んでいます。そうめんは梅雨を越すときに、湿気を吸収し、再び乾燥します。この工程を繰り返すことで、コシの強い、美味しいそうめんになるのだそうです。この性質こそが、そうめんが非常食として有効である所以なのです。
通常の非常食ならば、災害が発生しない限り消費されず、年々品質が低下するため、定期的な交換を余儀なくされます。しかし、そうめんは古くなるにつれて品質がよくなるのです。現在、南あわじ市で備蓄されているそうめんは3年で交換されているそうなのですが、この性質を踏まえれば、これまでの非常食にはない可能性を秘めていると思いました。
まとめ
今回の調査では、日本の食文化としてお馴染みの「そうめん」が持っている非常食として有用性について学ぶことができました。この性質は家庭での食糧備蓄にも新しい防災文化を根付かせることができるかもしれません。たとえば、大切な人にそうめんを箱で送れば、それは単に食糧を送るということではなく、安全を送るということにもなります。これは、これまでにはなかった防災のスタイルではないでしょうか。さらに、こうした動きが何百年にも及ぶ伝統の継承と、地域経済の振興にも繋がります。
日本の伝統食品は多種多様です。それらの中にはそうめんのように非常食として有効な性質を持っているものが他にもあるかもしれません。今後、さらに調べていきたいと思います。