おすすめの本

東ユーラシア史を研究するにあたっておすすめの本を紹介しています。

杉山正明『遊牧民から見た世界史 増補版』

(日経ビジネス人文庫,2011年)

杉山正明:遊牧民から見た世界史

はじめて本書の原本(日本経済新聞社,1997年)を読んだ時の衝撃と感動は忘れられない。北京留学から帰国し,研究テーマをソグド人の活動にシフトチェンジしつつあったものの,1996年~1997年の日本では,ソグド人研究は,「シルクロード」上の交易活動以外では全く注目されていなかった。自分自身の研究テーマへの不安,研究視角の不透明さなど,暗中模索状態だった時に手にしたのが本書である。この本は,様々な評価ができると思う(当然,その独特の文体とあいまって嫌う人もいる)が,中国中心史観・漢文至上史観を相対化した点に大きな特徴がある。もちろん,神田信夫『大世界史11 紫禁城の栄光』(文藝春秋,1968年。後,岡田英弘・神田信夫・松村潤『紫禁城の栄光 明・清全史』,講談社学術文庫,2006年として復刊)があるが,1997年当時,入手できていなかったし,また叙述対象時期が14世紀後半から19世紀までと新しい。それに対し,杉山『遊牧民から見た世界史』の主たる対象時期は,スキタイからモンゴル帝国までだ。この本を読むと,いかに我々の中国史の認識が,フィルターのかかったものであるのか,ということを思い知らされる。

森安孝夫『興亡の世界史 シルクロードと唐帝国』

(講談社学術文庫,2016年)

森安孝夫:興亡の世界史 シルクロードと唐帝国

もとは,2007年に出版された同名の一般向け概説書。中国史の概説書シリーズにみられる唐帝国の制度面などの叙述はほとんど無く,唐の時代(7世紀~9世紀)のユーラシア東部地域の歴史をダイナミックに叙述している。唐帝国,突厥帝国,ウイグル帝国,古代チベット帝国といった諸勢力が織りなす政治・軍事的歴史展開の描写に加え,ソグド人の活動を最新の研究成果に基づいて描き出しているところに大きな特徴がある。本書のおもしろさを味わうためには,同時代の中国史(隋唐五代史)の概説をあわせて読んだほうがよい。古いものでは,布目潮風・栗原益男『隋唐帝国』(講談社学術文庫,1997年),比較的新しいものに,氣賀澤保規『中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代』(講談社,2005年)がある。

氣賀澤保規『中国の歴史6 絢爛たる世界帝国 隋唐時代』

(講談社学術文庫、2020年)

もとは2005年に講談社から出版された「中国の歴史」シリーズの1冊。全11章からなる隋唐時代の概説書。この時代を研究しようとする人の入門書となる。はじめの3章で隋から唐の政治史の流れを描き、4章で律令制と人々の暮らし、5章で唐代の女性、6章で都市と経済、7章で軍事制度、8章は唐代の中国旅行した円仁と仏教、9章で中国周辺の国々、10章で隋唐時代の文化、そして終章で「唐宋変革期」について述べている。「学術文庫版の補遺」が収録され、原本出版後15年間で進展した隋唐時代史に関する研究状況と新出の石刻史料の紹介がされる。