
PDB: 1BNA
40億年とも言われる地球上の生命の歴史の中では、数え切れないほどの進化の過程があったはずです。それにもかかわらず私たちの遺伝情報は、生命の起源から私たちに至るまで絶えることなく、共通の記録媒体によって連綿と受け継がれてきたと考えられています。その記録媒体こそが、DNA(デオキシリボ核酸)です。およそこの地球上に今日存在する生きとし生けるものは、ただ一つの例外もなく、有名な右巻き二重らせんを形成する「DNAという化合物/高分子」に、ATGCの四文字をつかって遺伝情報を記録しています。化学の目で見れば右に巻く構造と左に巻く構造の二種類が考えられるDNAですが(これらは鏡に映した関係にあるので、鏡像体といいます)、左に巻く側の鏡像体を使っている生物は、いまだに全く見つかっていないのです。これが「地球上の全ての生命は、共通の祖先に遡ることができる」という仮説の根拠の一つです。
このように気が遠くなるほどの時間、変わらずにはたらきつづけてきたDNAは、遺伝情報を次代に伝えていくために、その構造が極限まで最適化されています。上で挙げた右巻き二重らせん構造もその一つ。これに加えて「Aの向かい側にはT、Gの向かい側にはCがくる」という基本ルール(相補的塩基対形成といいます)だけをつかって、私たち生命は天文学的な回数、遺伝情報のコピーをくり返してくることができました。これらの特長が、いかに優れているかの証拠ともいえるでしょう。
私たちの研究室では、このようなDNAを身近にあふれる化学品などと同様のひとつの「化合物/高分子」として取り扱い、40億年の生命の歴史が証明してきた数々の特長を、材料化学において最大限に活用することをめざしています。そして主に下に挙げた、分子を自在にあやつる3つの「分子技術」を究めることで、未来をになう「分子装置(デバイス)」、「分子機械(マシン)」、さらには「分子ロボット」を開発していきます。