授業内容

私の授業では、次の「4つの力」を養うことを目標にしています。

1.作品から「感じる」力

「私には生まれつき美術を味わうセンスがない」という人がいます。そんなことはありません。美術を味わうセンス=「感じる力」は誰にでも備わっており、養うことができます。まずは「名作」「名品」とされているもの(できれば実物)を、積極的に見ましょう。長い年月をかけ多くの人たちに支持されてきた作品には、相応の理由があるものです。そこから少しづつ対象を広げていき、特に大学1,2年生の間は、和洋や古今を問わず、できるだけたくさんの作品を見ることを勧めます。

2.作品を「みる」力

「名作」「名品」を「見ましょう」と書きましたが、「みる」にはいろいろな漢字があります。じつは「見る」には、対象を視界に入れるという意味合いしかありません。目的を持って対象を「みる」場合は、「観る」を使います。観覧、観賞などという言葉がありますね。さらに対象を細部までしっかり「みる」場合には、「視る」という漢字が使われます。私の授業では、「見る」から「観る」、そして「視る」へと、作品を「みる」力を段階的に上げていくことを目標にしています。

3.作品を「読み解く」力

とはいえ、作品を「感じる」力や「視る」力だけでは、作品を充分に味わえないこともあります。例えばキリスト教やギリシャ神話を主題にした絵画や彫刻を視るには、その宗教や神話に関する基本的な知識だけでなく、聖人や神を表す象徴的な持物(アトリビュート)に関する知識が必要です。また、人生訓などの寓意が込められた風俗画や静物画もあったりします。私の授業では、こうした知識を学び作品を「読み解く」力を養うにはどうすればよいかを、具体的に教授します。

4.作品について「考える」力

作品を「感じる」力、「視る」力、「読み解く力」は、最終的に作品について「考える」力につながります。「この作品は何を意味しているのだろう」「どこに独創性があるのだろう」「作者はこの作品で何を表現したかったのだろう」。自分で問いを立て、さまざまな力を総動員し作品が持つ世界を深く掘り下げて、皆さんなりの答えを見つけてください。いかなる作品も、人間の創造物であることに変わりありません。作品について「考える」ことは人間について考えることであり、それは必ずや、皆さんがこれから人生を切り開く糧になるはずです。

大学では基本的に図版や画像で作品を視ます。しかし、本当はそれでは作品を視たことにはなりません。作品の大きさや素材感など、重要な情報が抜け落ちているからです。この制約を埋めるため、私の授業では、関西大学総合図書館が所蔵する大坂画壇関係のコレクションや、教材として専修が所蔵している油彩画、日本画、版画、彫刻などを用いたり、展覧会の見学会を催して、できるだけ実作に間近に触れる機会を設けるよう心がけています。

また美術館や博物館の学芸員を志望する学生については、きめ細かな指導を行っています。

担当授業

専門教育科目:初年次導入科目(選択必修科目)

【学びの扉】(入門講義)

1年次生に向けた芸術学美術史専修の入門講義です。専修教員によるリレー講義で、私の担当授業は4回あります。「抽象美術は怖くない」と題し、私の専門である抽象美術を材料に、美術の楽しみ方、感じ方、感じる力(感受性)の養い方を講義しています。また、具体例として、私が長年研究している具体美術協会(「具体」)とジャクソン・ポロックについて、その魅力を解説します。2年次から芸術学美術史専修に進むと決めている学生はもちろん、どの専修に進もうか迷っている学生も歓迎します。

【知へのパスポート】(入門演習)

1年次生に向けた芸術学美術史専修の入門演習(ゼミ)です。模型やスライド、ビデオなどの視聴覚教材、資料を用いて、美術史の基礎知識、美術のさまざまな技法や用語、調査研究の基本的なスキルなどを学びます。演習は教員が一方的に話す講義とは違い、受講生が発言したりそれを聞いたりしながら互いに学び合う授業形式です。受講生には積極的に感じたことを言葉で表現してもらいます。

以下は、2年次に芸術学美術史専修に進んでからの少人数による授業です。私のゼミでは、欧米日の近代美術(日本画を含む) 、西洋美術を広く対象にしています。

専門教育科目:専修固有科目(必修科目)

【芸術学美術史専修研究IV】

〈専修研究〉では主に専修の教員の研究テーマについて学びます。専門的な「知」の最前線に触れる講義形式の授業です。私の授業では、近現代美術を私たちの身近な問題として捉えるべく、関西(京阪神)における動向に焦点を当て、その特色や独自性に迫ります。東京以外の美術史を学び、美術の動向や展開を多元的、多面的に捉える視野を養いましょう。

【芸術学美術史専修ゼミⅠ】

1年生で感じたことを言葉で表現するのに慣れたところで、2年次生ではまず美術館の作品解説や概説書を読み、そこで作品の在りようや美的価値がいかに記述されているかを学びます。そのうえで後半は、受講生各自が資料や画像を用いて自分が好きな作品を解説し、その内容について全員で討議することで、新たな観点や解釈の発見につなげます。

【芸術学美術史専修ゼミⅢ】

3年次生では、美術を点(作品)ではなく線(美術史)で考察する力、他者と協働しながら課題を導き出す力を養い、特定の作家に関する専門的な文献や画像を調査・収集し活用するスキルを学びます。グループで作家を選び、資料や画像を用いて、1)その作家の生涯や代表作、2)その作家が受けた影響、与えた影響、3)その作家の美術史上の評価について発表します。さらにその内容について全員で討議することにより、新たな観点や課題の発見につなげます。

【芸術学美術史専修ゼミⅣ】

3年次生のゼミ後半は、作家や作品を対象に各自でテーマを設定し、先行研究を踏まえつつ、資料や画像を用い独自の知見や見解を論証する訓練を行います。学術的な文章表現、記述の作法を学ぶほか、先行研究の分析から課題を提起し、それに対する独自の知見や見解を客観的かつ論理的に説明する力を養います。地味ですが、来る4年生の卒業論文作成に即役立つ授業です。この間に卒業論文のテーマを考えておくのがよいでしょう。

【芸術学美術史専修ゼミV・VI】

4年次生では、総仕上げとして1年かけて卒業論文に取り組みます。ゼミⅤとⅥは春学期・秋学期ひと続きの授業です。テーマを確定し、構成を考え、討議や対話、私の添削を通じて内容を深めつつ、1月初旬の卒業論文の完成をめざします。卒業論文を提出後、2月前半に口頭試問(卒業論文に対して専修の教員が質問します)があり、それをクリアしてはじめて合格となります。

ゼミでの文章作成には「ライティング・ラボ」、グループ発表の準備には「ラーニング・コモンズ」を活用してください。

専門教育科目: 専修関連科目(選択科目)

(専修を問わず受講することができます。)

【日本及東洋美術史b】

スライド、ビデオ等の視聴覚教材を用い、日本の近代以降の美術の流れを、同時期の西洋の動向の影響を織り交ぜながら概観します。「時代」「社会」「西洋」等との関係性を意識しながら作品を見る能力を養うことができます。

【現代芸術論ab】

スライド、ビデオ等の視聴覚教材を用い、現代美術(20世紀に欧米・日本で興った美術の動向)の展開を概観します。現代美術に関する基礎的な知識、作家や作品の芸術的特徴を学び、欧米日の現代美術の共通性や独自性を理解し、美術の「現在地点」について考察を深めることができます。

共通教養科目

(文学部、法学部、政策創造学部、外国語学部、システム理工学部、環境都市工学部、化学生命工学部の学生が対象です。)

【芸術学を学ぶa】

いくつかのキーワードのもと古今東西の作品を概観し、時代・地域・民族・宗教・文化を超え人間が変わらず表現し続けてきたものを通して、美術の幅広さ、奥深さ、普遍的価値について学びます。古今東西の名作を知り、見方や向き合い方を学びます。

私の担当授業以外にも、以下のような芸術学や美術史に関するさまざまな科目が開講されています。シラバスをよく読み、積極的に履修して、幅広い知識を身につけることを推奨します。

専修関連科目 (選択科目)

「音楽論」(1~4年次配当)、「演劇学・文芸学」(1~4年次配当)、「美学・芸術学概論」(2、3年次配当)、「西洋美術史」(2、3年次配当)、「日本及東洋美術史」(2、3年次配当)「現代芸術論」(2、3年次配当)、「映像芸術論」(2、3年次配当)、「芸術学・美術史特殊講義」(3年次配当)、「近代建築史」(3年次配当)、「日本建築史」(3年次配当)など。

共通教養科目

「芸術学を学ぶ」(1~4年次配当)、「美術からみる表現と理解」(1~4年次配当)、「西洋美術を味わう」(1~4年次配当)、「日本・東洋美術を味わう」(1~4年次配当)

平井ゼミ生の卒業論文論題

  • 万国博後の《太陽の塔》の存在意義とは
  • アンディ・ウォーホルのドルをモチーフとした作品から読み解く彼の金銭観
  • マグリットにおける異質な時代「ヴァッシュの時代」の重要性を問い直す
  • 象徴主義がセガンティーニの筆触の変化に与えた影響とは何か
  • ファン・ゴッホが『藝術の日本』から受けた影響
  • ジュール・シェレの「シェレット」がもたらした新しい女性イメージ
  • イヴ・サンローランにおけるファッションと美術の融合の意義
  • シャガールの描いた「円軌道の浮遊する人物」の起源と制作意図に関する考察
  • ファン・ゴッホの作品の今日的意義-精神疾患との関連から
  • カラヴァッジョ作品における聖性と俗性の役割
  • ビザンティン美術から見るエル・グレコの神秘性の表現について
  • ジョルジョ・デ・キリコの形而上絵画の再考
  • 山名文夫の女性像における独創性とは何か-竹久夢二と、オーブリー・ビアズリーとの比較から-
  • 草間彌生の作品の水玉模様が意味するものとは何か
  • 石化、あるいは岩石のモチーフから読み解くルネ・マグリットの晩年期の絵画観
  • オディロン・ルドンの作品における画風の変化とその要因
  • エドガー・ドガの特異性から見た「印象派」の再定義
  • 《猿を連れた貴婦人》に見る晩年期のオーブリー・ビアズリー作品の特質について
  • 2つの風景画にみるフェルメールにとってのデルフトの意味
  • ナムジュン・パイクとテレビとの相互関係について
  • 金山平三の日本風景画の特異性と現代への影響
  • 森村泰昌の<女優シリーズ>における手の役割と意味について
  • フラゴナールと新古典主義
  • 具体美術協会における「総合」の意味ー実験工房との対比から
  • デ・キリコの舞台性と「第四の壁」について
  • コロマン・モーザーの日本美術の受容について~《月次絵》(1899年)を中心に~
  • 19世紀パリの近代化とエドゥアール・マネの《鉄道》の主題についての考察
  • エドワード・ホッパーと版画
  • ピエール・ボナールの《浴槽の中の裸婦》(1925年)の象徴的な意味合いについて
  • アルフォンス・ミュシャと日本美術
  • ウェイン・ティーボーの戦後アメリカ美術史における位置づけについて
  • 小野竹喬の絵画作品における木の象徴的意味ー《夕空》(1953)を例にー
  • 映画『ヘルタースケルター』に見る蜷川実花の美学について
  • 高松次郎晩年の絵画作品についての一考察ー「形」における色彩表現とトータリティー獲得への方向性ー
  • デュシャンにとっての〈機械化〉ーピカビアとの関係から
  • グスタフ・クリムト《ユディトⅠ》《ユディトⅡ》をめぐる一考察