ATGC以外の天然に存在しない「文字」を使って私たちが開発した技術のひとつに、「突出末端生成PCR法」があります。英語で「LACE (Ligation Assisted Cohesive Ending) -PCR法」と名付けたこの方法は、PCRで使用するプライマーに光開裂性の保護基を導入した塩基(ケージド核酸)を使用します(特許第5397960号)。この特殊塩基がDNAポリメラーゼによる複製反応を位置特異的に阻害することで、この特殊塩基よりも5’端側にある領域が保護され、PCR反応を通じて常に1本鎖の状態を保ちます。最後に紫外線を短時間照射して光開裂性保護基を除去すれば、のぞみの配列、のぞみの長さの突出末端を有するPCR産物が、非常に簡便に得られるのです。
私たちはこれまでに、大腸菌に寄生する「プラスミド」という環状DNAの全長(約5,000塩基対)をLACE-PCRで増幅し、これ以上の一切の酵素反応を必要としない遺伝子組換え法(ライゲーション非依存クローニング法(LIC))へと応用しました(Molecules, 2012, 17, 328)。今後は、やはり遺伝子組換えで利用されるM13ファージウィルス(全長約8,000塩基対)やλファージ(約48,000塩基対)をLACE-PCRで増幅することで、ウィルスゲノムの完全人工合成を試みます。そして将来的には、マイコプラズマ(約580,000塩基対)や大腸菌(約4,600,000塩基対)などの原核生物のゲノムを完全合成することで、「人の手で一からつくりあげた生物=人工生命」の実現をめざしていきます。