京鹿の子絞りとミュオグラフィ Kyo-kanoko Shibori and Muography

☟下記の画像をクリックするとpdfファイルを見ることができます。☟

京鹿の子絞りについて

松田美津雄

京鹿の子絞り 伝統工芸士

京鹿の子絞り(きょうかのこしぼり)は、日本の伝統的な染色技法であり、絞り染めの中でも特に京都で発展して高い芸術性と技術的精巧さを誇る染色技術です。「鹿の子」とは、鹿の背中に見られる白い斑点模様に由来し、そのような点々とした模様が布地に現れることから、この名がつけられました。絞り染め自体の歴史は古く、奈良時代にはすでにその技法が使われていた記録があり、平安時代には宮廷衣装にも用いられました。その技法の発祥は一説によれば、縄文時代以前より生活の知恵として生まれたとの言い伝えもあります。

 特に、京鹿の子絞りが大きく発展したのは、江戸時代初期のことで、上方文化が栄えた京都において、公家や富裕な町人階級の需要に支えられて技術が洗練されてきました。絹織物を中心に、美しい模様と華やかな色合いが求められ、京の染織文化の中で鹿の子絞りは重要な位置を占めるようになりました。

 鹿の子絞りの特徴は、その細密で規則的な点模様にあります。この模様を生み出すためには、「手括り(てくくり)」と呼ばれる高度な手作業が必要です。布地を爪で一点一点つまみ、木綿糸、麻糸、絹糸などで括っていくことで、染料が染み込まない部分をつくりだします。括る点の数は一反あたり数10万にも及ぶことがあり、非常に根気と集中力を要する作業です。この括り方によって、大小さまざまな模様を表現することが可能となり、単なる装飾にとどまらず、文様としての意味や季節感も込められることが出来ます。

 染色には、伝統的には植物由来の天然染料が用いられており、以前は藍、紅花、紫根、刈安などを使い分け、落ち着きと深みのある色合いを出しています。糸の締め具合や染料の濃度、染める時間によって仕上がりが微妙に異なるため、職人の経験と勘が作品の完成度を大きく左右します。

 さらに、京鹿の子絞りには「本疋田絞り(ほんびったしぼり)」と呼ばれる最高級品が存在し、これは一粒一粒の点がまったく均等に並び、布の裏側まで完璧に染め分けられているものです。こうした逸品は、着物の中でも特に格式の高い礼装に用いられ、非常に高価なものとして知られています。

 現代においては、和装離れや生活様式の変化により、鹿の子絞りを用いた着物や帯の需要は減少傾向にありますが、その一方で新たな価値の創造も進んでいます。たとえば、鹿の子絞りの技法を活かしたストールやスカーフ、バッグといったファッション小物や、インテリアファブリックとしての展開も見られるようになりました。また、アート作品としての評価も高まり、海外の展覧会でも紹介されるなど、伝統を超えた表現の可能性を広げています。また、宇宙の研究をして

 京都では現在も、私を含めて数少ない専門の絞り職人たちがこの技術を守り続けておりますが、着物文化が衰える中、後継者の育成や技術継承にも課題が残されています。若い世代の職人やデザイナーとのコラボレーションを盛んにし、伝統と革新が共存する形で京鹿の子絞りは新たな時代へと歩みを進めることを望んでいます。

 最後に、世界で最古の染色技法「絞り」で最先端技術を表現できたことをうれしく思います。

発行日         :  2025.6.15.

作 品         :  松田美津雄

企画・構成       :  角谷賢二

編集・デザイン  :  角谷賢二

発 行      :  東京大学国際ミュオグラフィ連携研究機構

         :  国際美術研究所

連携研究     :  関西大学ミュオグラフィアートプロジェクト室