2024年11月9日・10日に京都産業大学で開催された大97回日本社会学会大会に参加しました。
私は、2018年から2022年にかけて、共同研究者とともに聞き取りを行ったデータを元に、調査対象となった製造業企業で、いわゆる「両立支援」制度である育休や短時間勤務が手厚く補償されるようになり、出産し、育児を担う女性社員が仕事を続けやすくなっていること、しかし女性の管理職昇進には依然として高い壁があること、などについて報告を行いました。
従来、女性管理職が少なく、かつ少ないことが問題化したあともあまり増加していない理由として、企業は管理職を担うだけの経験や能力がある女性社員が男性と比べて少ないためだと説明してきました。その認識にはいろいろ批判がありますが、仮にそれが正しいとすると、出産後も仕事を続ける女性が増えていけば、女性の管理職も徐々に増えていくのでしょうか?
インタビューを分析するまでもなく、ではあるのですが、子どもが生まれたときに仕事を長く休むのは女性(母親)で、復帰後に短時間勤務をして、子どもの面倒を見るのも圧倒的に女性で、そのことは、育休の取得率や期間など、雇用機会均等統計などにも明らかです。調査では、子どものいる女性社員のほとんどが1年ほどの育休を取得しているのに対し、男性の中で育児休業を取った人はごくわずかでした。多くの男性は、配偶者が出産したあとの1週間程度、有給休暇を取るくらいしか休んでいませんでした。また、国の基準では子どもが3歳になるまで、2時間まで勤務時間を減らせる「短時間勤務(時短)」制度がありますが、今回の調査対象企業はもっと手厚く、子どもが小学生になっても時短をとれる制度を導入していました。男性で時短を取っている人はいなかったのに対し、女性の多くが時短を、それも取れる期限いっぱいまで取得しており、その結果、残業を含む長時間労働が必要な仕事に女性がつくことはまれでした。調査では、育休や時短を取ったことへのペナルティのような部署転換は見られず、インタビューに答えてくれた女性たちも、それぞれ自分の専門性を生かした仕事につけていると感じていました。しかし、販売の期日に合わせて製品を開発していくような仕事は急な残業にも対応できることが必要で、そのような仕事を自分が担当できないということを残念に感じている人もいました。
一緒に調査をした研究者と話す中で、「どうしてそんなに長く時短を取ってしまうのだろう? 子どもが複数いれば、10年以上短時間で働くことになり、それはキャリア面で不利益なのは目に見えている。それなのになぜ?」という疑問もわきました。けれども、ある調査対象者が話していたように、「じゃあ、誰が子どもの面倒をみるの?」ということにつきるわけです。子育て中の男性は、育児に関して、配偶者(妻)にフリーライドしており、彼らを雇用している企業も、社員の配偶者が育休や時短を取ってくれるために、育児が最も大変なときも、あたかも子どもなど存在しないかのように長時間勤務をする社員を雇っておけるという点で、彼女らの仕事やその勤務先にフリーライドしているのでした。
インタビューを読む中で、さらに興味を引かれたのは、部下を抱えて働く中間管理職の男性たちが感じているプレッシャーでした。管理職は自分の仕事に取り組むだけではなく、部下に適切な仕事を与えて、教育していかなくてはならず、その中でチームとして十分な成果をあげていかなければならないというプレッシャーを感じて今した。そして、成果を上げることが、次のポジションに昇進するための評価につながることを分かっていました。そのため、時短中の社員など、担当できる仕事量がわからない人が部下にいる場合、どのように仕事を割り振ったらいいのかについて、考える余裕がないようにみえました。
私が今回報告したのは、「産業・労働・組織」というテーマの部会でした。私の報告以外にも、ジェンダーとキャリアに関する研究報告があり、大変勉強になりました。部会に参加し、報告を聞いてくれた方々、また調査に協力してくださった方々に御礼申し上げます。
*写真は発表前日に宿泊した町家リノベーションの宿です(ドミトリー)。