ラボ紹介

研究テーマ

Research Interests

本ラボのテーマ

数年前までは「身体心理学」研究室という名称のみを使っていました。身体心理学とは,心理学の中の一分野というより,どのような心理現象にも身体が関係していると考えるアプローチです。とくに姿勢,表情,呼吸,タッチなどの身体動作や身体感覚が感情や思考にどのような影響を与えているかを研究してきました。たとえば,笑うことで楽しい気分になったり,うなだれることで嫌な記憶を思い出しやすくなったりすることを実験的に検証したり,ニッコリしている人や姿勢のよい人を見ると,こちらまでつられてよい気分になったり,シャキッとしたりするような行動の機能にも関心があります。

その後,もっと裾野を拡げ,また方向性を明確にするために「構成行動学」研究室と名称を変えました。これは,私が所属していた構成主義研究室と行動学研究室(身体心理学の旧称)を合わせた造語です。構成主義(constructivism)では,人間が他者や外界,また自分自身を理解する際には,身体・生物的な影響を受け,社会・文化的な文脈とも切り離せないと考えます。そのため,日本文化の固有性,とくに神道的な生活様式(例,自然を大切にする,清める)や日本語独特の表現(例,ありがとう,いただきます)やオノマトペ(例,ぽかぽか,もふもふ)などによって,どのような世界観が形作られているのかなど興味があります。

「構成的」の“constructive”には,「建設的」という意味もあります。行動学の英訳を”praxeology”としていますが,これは「行為・実践の学問」という意味に由来します。この言葉で強調したいのは,何かしら役立つ実践につなげたいということです。物事に集中したり,やる気を出したり,クリエイティブに考えたり,ほっと一息ついたりといった自分のためになる実践や,周囲の人に優しくしたり,困っている人に手を差し伸べたりといった他者のためになる実践などにつながる研究ができたらよいな,と思っています。

構成主義とは?

さまざまな学問の領域にまたがる学際的な動向ですが,構成主義とは,要するに,知識の構成性に関する理論や研究,そして実践の総称です。いまの私の(関心からくる)理解では,知識とは,身体化され(embodied, bodily-bound, or somatically-grounded),また社会と文化に埋め込まれている(socilally/culturally-embedded)と考えています。つまり,われわれが世界(自己を含む)を認識するということは,身体化されたプロセスを伴い,また,対人相互作用によって影響され,社会・文化・歴史性に依拠しているということです。

そのため,身体感覚(sensation)や身体動作(action: enactment)に根ざす身体化認知(embodied cognition)や感情の末梢起源説(これをembodied affectと呼びたい),狭義の身体心理学の研究を行う一方で,認知の様式と感情表出の文化差,文化固有の心性(認知・行動・感情の総体と定義)にも関心をもち,仏教や神道などの思想やそれと臨床との関係について研究を行ってきました。重要なのは,これらは別個の現象ではなく,互いに絡み合って影響し合っているものだということです。

備忘録的に,関連するキーワードを列挙しておきます。
  • 主体性(agency)
  • 能動性/活動性(activity)
  • 体制化/組織化(organization)
  • 身体性(embodiment, bodyhood, bodyfulness)
  • 行為(action, enactment)
  • システム論(systems theory),複雑系科学(science of complexity / complex systems science)
  • 進化論的認識論(evolutionary epistemology)
  • メタ認知(meta-cognition)
  • 暗黙のプロセス/無意識的処理(tacit processes/un-/non-conscious processing)
  • 意味(meaning)
  • 社会的構築主義(social constructionism)
  • ナラティヴ/語り(narrative),物語/ストーリー(story)
  • 対人的(interpersonal),社会的(social),文化的(cultural)次元
  • 実行可能性・生活可能性(viability)
  • 機能(function)
  • 探索(exploration)

最後の2つは,構成主義のキーワードとして挙げられることはあまりないですが,個人的にはかなり重要な隠れキーワードだと思っています。なぜかということも,そのうち解説します。

構成主義に関しては,多くは,英語や欧語で書かれていますが,邦語文献も増えてきています。ここでは,差しあたり,邦語文献のみを紹介していきます。赤字にしているのは,今後,大学院で使おうかと考えている文献です。
専門外の人に向けて書いた記事もあります。
臨床的な文脈で書いた拙論もあります。
パーソナル・コンストラクト心理学,とくにレプテストに関する邦語論文も,リストアップしていきます(もっとあるので,それはいずれ)。
  • 林文俊 (1976). 対人認知構造における個人差の測定(1):認知的複雑性の測度についての予備的検討 名古屋大学教育学部紀要. 教育心理学科, 23, 27-38.
  • 楠見幸子・狩野素朗 (1984). 認知的複雑性と自尊感情との関連:性と年齢の効果 九州大学教育学部紀要(教育心理学部門), 29, 39-43.
  • 向山泰代 (1987). 青年期における自己・他者概念の発達的研究 甲南女子大学大学院心理学年報, 6, 23-46.
  • 澤田瑞也・長瀬荘一・村上芳巳・民法紀彦・小花和尚子 (1990). 中学生の友人概念に関する一考察―レプテストによる検討 神戸大学教育学部研究集録, 84, 205-217.
  • 鈴木佳苗・坂元章 (2001). 認知的複雑性の発達における測定方法の検討:自由記述法・修正自由記述法・制限記述法の有効性 人間文化論叢, 4, 23-33.
  • 山口陽弘・久野雅樹 (1995). 認知的複雑性の測度に関する多面的検討 東京大学教育学部紀要, 34, 279-299.
社会的構築主義に関する書籍は,わりと邦訳書も出ています。
  • Burr, V. (1995). An introduction to social constructionism. London: Routledge. 田中一彦(訳)(1997)社会的構築主義への招待:言説分析とは何か 川島書店.
  • そのほか,「ガーゲン」や「社会構成主義」,「社会的構成主義」,「構築主義」などで検索してみてください。
  • 社会的構築主義の臨床と言われるものに,ナラティヴ・アプローチがあります。これについても,邦訳書が何冊も出ています。「ナラティヴ」や「ナラティブ」で検索してみてください。
「構成主義」と必ずしも呼ばれるわけではありませんが,比較的一般に,構成主義に含まれるとされる重要な邦語文献。
  • Hayek, F. A. (1952). The sensory order. Chicago: University of Chicago Press. 穐山貞登(訳)(1989)感覚秩序 西山千明・矢島鈞次(監修),ハイエク全集4 春秋社.
    ※ハイエクは,自分の立場を「構成主義」と対比して書いていますが,彼の立場が現在「構成主義」と呼ばれるものであり,彼が批判している「構成主義」は現在の構成主義ではありません。
  • Polanyi, M. (1966). The tacit dimension. London: Routledge & Kegan Paul. 佐藤敬三(訳)(1980)暗黙知の次元:言語から非言語へ 紀伊国屋書店.
  • リードル,R.(1990)認識の生物学 新思索社.
  • フォルマー,G.(1995)認識の進化論 新思索社.
  • 「複雑系」・「複雑性」,「自己組織化」・「オートポイエーシス」で検索してください。とくに,「オートポイエーシス」はラディカル構成主義の1つとされます。
一般に「構成主義」に含められないが,個人的に含めるべきと考えている邦語文献。
  • 春木 豊(編)(2002)身体心理学 川島書店.
  • 西田幾多郎全集
  • 西谷啓治著作集

(追記)

このような幅広い動向を「構成主義」(constructivism)と称することで,異なる学問分野における個々の研究の関連性が見えてきたり,そこからある人間観や世界観が垣間見えたりすることもあります。私の恩師の一人であるMichael J. Mahoney先生がそうしたように,構成主義という言葉のもとに,これまでは知らなかった異なる領域の研究者が集ったり,なかには対立学派であった研究者同士の対話を促進したりする役目もありました。

しかし,今日では,あえて構成主義と称さずとも,多くの研究が「構成主義的」になり,構成主義がその歴史を通じて主張してきたことが,もはや学問界の「常識」となりつつあると言っても過言ではないように思います。実際にデータベースで確認したわけではありませんが,constructivismという用語の使用は,全世界的にはいまなお拡がりつつあっても,全体数は減ってきているという印象があります。

知人であるRobert Neimeyer氏が,2006年くらいだったか,死生学会に招待されて来日したときに話す機会がありましたが,彼ももはやconstructivismという用語をあえて使う必要がなくなってきていると言っていました。これは構成主義と呼ばれる「動向」が衰退していることを表しているのではなく,その「言葉」が当初のような役割をもたなくなり,構成主義の主張や知見を支持するような研究が増え,それが主流になりつつあるということを表しているのではないか,と思います。事実,constructivismという用語はあまり見なくなったものの,そのキーワードであり,”agency”,”embodiment”や”meta cognition”,”unconsciousneess/non-consciousness”などに関する研究は急増し,様々なジャーナルで特集号も組まれています。

ラボメンバー

Members

  • 山本 佑実(関西大学非常勤講師)
  • 福市 彩乃(立命館大学OIC総合研究機構研究員・関西大学非常勤講師)
  • 学部5年次生:1名
  • 学部4年次生:11名
  • 学部3年次生:11名

受賞・栄誉

Award & Honors

2019

  • 日本マインドフルネス学会第6回大会で,本研究室の二人が最優秀研究賞を受賞しました。
  1. マインドフルな態度・整理整頓・時間管理の関連性と整頓の効果(山本佑実・増田実華・菅村玄二)
  2. 日本的なマインドフルネスの一要素としての「正座」の対他効果:「礼」と「徳」の観点から(福市彩乃・菅村玄二)

2018

  • Mind & Life InstituteのInternational Research Institute 2018として企画されたContemplative Practice in Context: Culture, History, and Science (September 1-5, 2018)のProgram Planning Committeeを務めました。
  • 日本マインドフルネス学会第5回大会で発表したで優秀研究賞を受賞しました。
  1. マインドフルな「立腰」教育は授業行動にどのような影響を与えるか? ──小中学生の授業時姿勢変化のコード化と中学生を対象とした予備的分析──(菅村 玄二・村上 祐介・本元 小百合・上野 雄己・稲垣 和希・山本 佑実・雨宮 怜・鈴木 平・春木 豊)

2014

  • 本研究室の山本佑実さんが,日本心理学会の心理学ミュージアムの優秀作品賞を受賞しました。
  • 受賞作品:”体”を温めると“心”も温まる—身体化認知
  • 本研究室の加藤久美子さん,本元小百合さん,山本佑実さんが日本心理学会のトラベルアワードを受賞し,International Convention of Psychological Scienceの第1回大会(オランダ)で,学会発表してきました。

2009

  • フロリダ大学心理学部のProf. Harris Friedmanから,仏教・道教などの東洋哲学と心理学との関係に関する拙論が評価され,International Transpersonal AssociationのFounding Board Memberの日本代表に推薦されました。
  • ITAと同名の学会がすでにあったのですが,それが学際的・国際的な視点に欠くものであったため,その名称だけを受け継いで,真に学問横断的で,単一の理論ではなく,また多文化的な視点をもつ国際学会を創設するというものです。トランスパーソナルを狭義に捉えるのではなく,多様な観点から人間の成長などを理解していきたい,というITAの趣旨には賛同しましたが,自分の研究は,トランスパーソナルだとは思っておらず,また,この分野では,私などよりもずっと適任な先生方が日本にもいらっしゃるので,その先生方のお名前を出して,断ろうとしましたが,なんだかんだで,説得され,引き受けることになりました。

(追記)メールでの仕事やネット会議もあまりに多く,2013年に委員を辞退しました。

2008

ベルリンで開催されたInternational Congress of Psychologyで,Dr. Ulfried Geuterから,菅村の一連の姿勢の研究についての取材を受け,ドイツの心理学雑誌やラジオで取り上げられました。

2007

Best Poster Award, First Place

Sugamura, G., Takase, H., Haruki, Y., & Koshikawa, F. (2007, August). Bodyfulness and posture: Its concept and some empirical support. Poster session presented at the 65th Convention of the International Council of Psychologists, San Diego, CA, USA.

Best Poster Award, Third Place

Shiraishi, S., Koshikawa, F., & Sugamura, G., (2007, August). Positive automatic thoughts as a possible cognitive component of resilience. Poster session presented at the 65th Convention of the International Council of Psychologists, San Diego, CA, USA.

2005

Distinguished Service Award

The Society for Constructivism in the Human Sciences

学会活動

Memberships

国内学会

  • 日本心理学会(教育研究委員会・博物館小委員会)
  • 日本教育工学会
  • 日本人間性心理学会(第27回大会準備委員)
  • 日本認知科学会
  • 日本応用心理学会
  • 日本マインドフルネス学会(理事・編集委員・事務局長)
  • 日本理論心理学会(第61回大会委員長)

海外・国際学会

研究会

  • 構成主義研究会(休会)
  • 感情・感性研究会
  • 医療におけるからだとスピリチュアリティを考える会
  • マンガ心理学研究会(日本心理学会分科会)
  • <身>の医療研究会(理事,第9回研究交流会大会長)