森部豊『安禄山―「安史の乱」を起こしたソグド人』(山川出版社、2013年5月)

安禄山は、ソグド人の父と突厥人の母の間にうまれた人で、唐王朝に仕えて軍人とし出世し、裸一貫で地方軍事長官(節度使)にのしあがりました。755年に彼は唐朝に対し「反乱」を起こしますが、その二年後には息子に暗殺されてしまいます。ただ、その息子は安禄山の盟友だった史思明に殺され反乱は続いたので、この両者の姓をとって「安史の乱」と呼びます。やがて史思明も息子に殺され、その息子も部下に殺され、「安史の乱」は平定されました。この時、モンゴリアの騎馬遊牧国家のウイグルが唐朝を助け、乱の鎮圧に成功したと言われます。大筋、このような話なのですが、安禄山をめぐっては、単なる「反乱」を起こした悪人という評価ではすみません。かれを取り巻く人間関係を探っていくと、そこには唐朝の支配から離れようとする多種多様な民族がいたことが浮かび上がります。また、安禄山の軍隊を分析してみると、そこには8世紀半ばのユーラシア大陸で興っていた人々の移動が大きく関わっていたこともわかってきました。一方、安禄山の反乱に対抗した唐朝の軍隊にも、そのような要素があったのです。安史の乱は、これまで、中国国内の政治史の矛盾から起こったと解釈されてきましたが、本書では、より広いユーラシア全域の歴史を踏まえ、安史の乱を、安禄山とその仲間の独立運動としてとらえました。一般向けの書籍ですので、ぜひお読みください。

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