【教員コラム第81回】10年先を見る

社会システムデザイン専攻  森田 雅也

このコラムの主たる読者のみなさんには馴染みが薄いかもしれませんが、現在放送中のNHK連続テレビ小説「マッサン」では、主人公のマッサンこと亀山政春が、日本にもウイスキーの時代が絶対に来ると信じて国産ウイスキー製造の夢を追いかけています。時代は20世紀前半、第1次世界大戦後、実話をもとにしたドラマです。

マッサンがウイスキー事業のための出資を依頼する場面で、ウイスキーを巡るこの先について次のように語っています。やり取りは割愛して、マッサンの言葉だけを抜き出してみましょう。

「これからの日本はますます西洋化が進んで行きます」
「世界を巻き込んだ先の戦争以来、貿易や海運などの産業は盛んになっとります。今後、益々、諸外国との交流は増えていくでしょう」
「外国人との付き合いが増えりゃ、より多くの日本人がウイスキーの魅力に気づくに間違いありません」
「大阪では益々、大衆向けの商店や食堂に西洋の食べ物、文化が入り込み、カフェーなどが増えとります。それ一つとってもウイスキーの需要は確実に高まっていくと考えられます」

 マッサンは、世の中の変化を敏感に嗅ぎ取り、これから先のウイスキー情勢を描き出しています。マッサンの読みがどうであったかは、現在のウイスキーを取り巻く状況から判断してもらえるでしょう。

 こうした思考を巡らせることを「10年先を見る」と私は呼んでいます。10年に絶対的な意味があるわけではありません。かなり多くの人がその変化の兆しを感じ始めている2~3年先ではなく、かといって不確定要因が多くなりすぎる20年も先でもなく、気づいている人は少ないけれどかなりの確信を持ってその変化を描き出せそうな将来のある時期という意味で、そして語調も良いので、「10年先を見る」です。

 確かに容易い作業ではありませんが、まずは自分が関心のある領域で思考訓練を始めてみてはどうでしょうか。10年先の自動車、映画産業の10年後、コンビニin 2025など何でも構いません。これから就職活動を始める人たちなら、10年先の仕事に求められるもの、働きたい業界の10年後を考えておくことは絶対に必要でしょう。

 多くの出来事は起こった後に、「そういえば、あの時・・・」という後講釈がよく聞かれます。ということは、変化は突然前触れもなくやって来るわけではなく、その“予兆”は至る所にあるということです。普段からそういう意識を持って情報を取捨選択し、社会の動向を見つめ、小さな動きを鋭く感じることを積み重ねていけば、漠然とであっても予想図が描けてくるはずです。今から是非始めてみて下さい。10年先に、「思った通りや!」となれば最高の気分だと思いませんか。

〔謝辞:本コラム作成の過程で、社会学専攻 永井良和教授から「マッサン」に関して有益なご教示を賜りました。感謝申し上げます。〕