【教員コラム第64回】自分にとっての「良い会社」

社会システムデザイン専攻  森田 雅也

学部紹介などのために高校や予備校に訪問させていただくことも多い。ある予備校の先生から、進路相談にはかなりの親御さんが同席し、「ここに行けば(進学すれば)良い会社に就職できますか」と尋ねられる、という現状を教えていただいた。「ここに行けば何が学べるか」が二の次になっていることを残念には思うが、卒業後に仕事に就くことを考えている以上、また近年の雇用状況を見ると、そうした情報が一番に求められることも致し方ないのかなとは思う。

 
 しかし、ここで「良い会社」について考えてみたい。一般に「良い会社」と言われるX社があるとしよう。一部上場企業であるとか、給与が高いとか、X社の製品は素晴らしいといったことを理由に、人はX社を「良い会社」と呼んでいるのだろう。けれども、これから職に就くみんなが考えなければならないのは、世間の評価ではなく、働く自分にとってX社は「良い会社」かどうかという点だ。この見極めはなかなか難しい。なぜなら、このためには自分の判断の軸を持たなければならないからである。

 一般に、雇用の問題では「マッチング」― 組織や仕事と人とがうまく合っているか ― が重要とされている。私たちの方からすると、自分の求めるものを組織が提供してくれている状態が、マッチングがうまくいっている状態となる。そのためには、自分は何がしたいのか、自分にはどういう能力があるのか、働くにあたってこれだけは譲れないものは何なのか、などを把握することが必要となる。同時に、企業や世の中の仕組み、今後の動向について知り、考えるとともに、X社に関する情報も得なければならない。自分の判断の軸がなければ、情報の洪水の中で情報を切り捨てながらこうしたことを成し遂げていくことはできないだろう。書いてしまえばほんの3~4行のことではあるが、ちょっと考えただけで「結構大変なこと」と感じた人も多いのではないだろうか。そう、判断の軸を形成することは決して簡単なことではない。

 けれども、普段からいろいろなことに興味を持ってアンテナを張り、本を読み、街に出て、人に会い、そして授業にも積極的に参加していれば、気づかないうちに判断の軸は形成されてくるということもまた事実だろう。その際に最も重要なことは、自分で考えるクセをつけることだ。日々、問題意識を持ちながら考動する(考えながら行動する)ことで、自分の中に判断の軸は徐々に作られてくる。その意味では、就活は大学に入った時から(さらに言えば、大学に入る前から)始まっているとも言えるし、逆に、リクルートスーツを準備する頃に気づいても、判断の軸の形成には遅すぎる危険があるとも言えるだろう。

 繰り返しになるが、大切なことは、自分にとって「良い会社」を決める判断の軸をもつことだ。実は自分には合わないが世間一般に言われる「良い会社」で働くことと、私にとっての「良い会社」で働くこと。職業人生が40年にもわたることを考えれば、どちらが望ましいかは言うまでもないだろう。だからこそ、みんなには大学生として与えられた時間と資源を有効に使いながら、自分の判断の軸を是非とも形成してもらいたい。私たち教員は、喜んでその手伝いをしたいと思っている。