【教員コラム第42回】3回生秋の大仕事

社会システムデザイン専攻  森田ゼミ

森田ゼミでは、3回生の夏休みから秋学期は格段に忙しい。
夏休み中の課題は、卒論のテーマと骨子の作成、20冊(編)以上の参考文献リストの作成である。「こんな時期から卒論ですか」の声も聞かれるが、この時期に卒論に取りかかり、秋学期のゼミで各自の経過報告を行っておかないと就職活動に間に合わない。端的に「卒論は何に取り組みますか」と聞かれた場合はもちろん、自分なりのテーマを定めることで社会を見つめる「軸」を作ることができる。関心のアンテナをきっちりと立てることで、それがなければ見落としていたようなことがらを“引っかける”ことができるようになる。こうした理由で、やや早いかなとは思いつつ、3回生の夏休みの課題をこのように設定している。

しかし、ゼミ生にはもう一つの大仕事が待っている。それが、人的資源管理を専門とする神戸大学経営学部上林ゼミナール、横浜国立大学経営学部二神ゼミナールと行う合同ゼミである(指導教員の留学等により2大学で行う場合もある)。毎年、11月末から12月初旬に本学の飛鳥文化研究所に集い、大きな3テーマ(2008年度は、成果主義、女性労働、人材育成)のもと各大学がグループを形成し、それぞれさらに特定のテーマで報告を行う形をとっている。このグループ分けが夏休み前に行われ、夏休みから合同ゼミの準備が始まることになる。秋学期には通常のゼミ報告も行われるから、合同ゼミ前後にゼミ報告にあたったゼミ生には、申し訳ないが、不運と思って頑張ってもらうしかない。
合同ゼミは、1つの大きなテーマについて3大学が報告し議論を行うセッションを3度繰り返す、というのが全体の構成だ。先輩の感想や意見をもとに微修正を続けた結果、最近は報告時間を極力切り詰め、議論の時間をできるだけ長くするように努めている。それでも、「もっと議論をしたかった」「こんなに議論できるわけがないと思っていたのに、あっと言う間に終わってしまった」という意見が毎年たくさん聞かれる。土曜の午後一番に始め、休憩、夕食・入浴をはさみつつ22時過ぎまでセッションは続くが、最後まで活発な議論が続く。その後は、コンパ。本気で議論しあった仲間だから、大学の壁を越えてすぐにうち解ける。

 10年ほど続く合同ゼミであるが、ゼミ生はそこから多くのことを学んで成長する。ここでは2つだけ取りあげよう。
まず、グループ作業の難しさである。卒論研究を個別で行っている森田ゼミではグループ作業をする機会はこの時しかない。フリーライダーになるな、作るなと口を酸っぱくして言っていても、残念ながら毎年フリーライダーはでる。そういう状況で、フリーライダーを説得するのか、仕方なく許しつつグループとしていかに凝集力を高めるかなど、何とか対処しながらグループ作業を仕上げなければならない。こんな時しか経験できないある意味“貴重な”体験である。さらに、6~8名のグループで20分の報告では、自分が調べたところが最終的には使われない学生もでてくる。論旨明快な報告をするために、「10調べて9棄てよ」は森田ゼミの鉄則だから、これも致し方ない。その時、その本人も周りのメンバーもどう振る舞うか。社会に出てからも一人きりで完結させる仕事は少ないことを考えると、ここでグループ作業を経験することはゼミ生にとって有意義である。

もう一つは、他大学の学生との本気の討論である。高校時代の友達やバイト先の友人など他大学の学生と話す機会はゼミ生にも結構あるのだろう。けれども、彼(女)らと、あることについて本気でとことん議論する機会はそうそうないのではないだろうか。偏差値世代の学生は、残念ながら、合同ゼミの前には「神大や横国の子はカシコイし・・・」と少々怖じ気づいている。けれども、ふたを開けてみれば、決して自分たちが劣っていることはないことはすぐにわかる(当たり前ではあるが)。合同ゼミ後の振り返りでは、「神大は○○は良かったが、△△は関大の方が良かった」「横国の□□は、こういう点でよく考えられていた」と、非常に冷静に相手や自分たちを見ることができるようになっている。関大生同士という仲間意識の甘えが許されない、他大学のゼミ相手だからこそ必死に頑張った成果だろう。他流試合は計り知れない経験と成長を学生に与えてくれる。そして、それは約5ヶ月にわたって一生懸命準備し、本気で議論し、全力を出し切るからこそ得られるものである。

 合同ゼミという大仕事を終えて一息つくと(つく間もなく?)、就職活動が始まる。他流試合で自分を磨いたゼミの先輩たちは、今まで以上の自信を持って、自分のキャリアをデザインしていってくれた。これから合同ゼミを経験するゼミ生にはしんどい秋学期になるだろうが、大仕事をやり遂げた後には、十二分な成果と成長感を味わってもらえるものと確信している。