【教員コラム第11回】育児休業を取得して

社会システムデザイン専攻  森田 雅也 教授

10月初旬より育児休業を取得している。妻ばかりに仕事を休む負担をかけるわけにはいかないこと、こどもの成長にできるだけ深く関わりたいことの2つが大きな取得理由だ。そして、少し格好良く言えば、人的資源管理の研究者として理論と現実との違いを身をもって検証してみたいと考えたところもある。

 実際に取得してみてどうだったか。これは想像をはるかに超えている。育児がこんなに大変だとは思ってもいなかった・・・。

 正直言って、娘が眠った時やおとなしくしている時にはノートパソコンに向かって書き物くらいはできると高をくくっていた。冗談じゃない。娘の活動時間中は、自分のことをする時間なんてほとんどゼロだ。昼寝の最中も、やれ片づけだ離乳食の準備だと休んでいる暇もない。自分の食事もトイレも“スキを見て”という感じで、パソコンに向かうなんてとても、とても。(だから、この原稿も深夜に書いている。)幸いにも義父母の手を借りることが出来たり、妻の勤務時間にかなり自由が利いたりするので、私の負担は一般的な育児休業取得者よりもかなり少ないとは思う。それでも、こんなにシンドイ。私が家事や育児の素人だからそう感じるのだろうが、それにしても大変だ。

 もし育児休業をとらずにこれだけのことをこなすなんて到底考えられない。それを思うと、この制度は本当に助かる制度だ。こどもが1歳になる頃には、新米親父もそれなりの子育て能力を身につけるだろうし、こどもにも今ほど手がかからなくなるだろう(また違う大変さは増えるかもしれないが)。それだけに、この時期にこどもに没頭できる時間が約束されていることの有り難さを痛感している。

 最近のキャリア研究では、スローキャリアという考え方も提唱されている(例えば、高橋 俊介『スローキャリア』PHP研究所、 2004年)。私なりに解釈し直した言葉で言えばこうだ。仕事における上昇志向だけでずっと走り続けるのではなく、人生には様々な局面があるのだから、その時々でそれぞれの出来事に応じた力の入れ具合で生きていけばいいじゃないか、という考え方だ。これにならえば、今の私は、自分の人生で、子育てに力をそそぎ、仕事への力の入れ具合は緩めるべき局面にあると言えるだろう。仕事という一面だけを2004年度という短期間だけで見ると、育児休業は大きなマイナスということになるのだろう。しかし、仕事は生活の中の一部である、仕事生活は40年の長きに渡るという見方をすれば、このかけがえのない4ヶ月間は、何ものにも代え難い経験と力を私に与えてくれるプラスの時間だと考えられるし、そう信じている。

 ワーク・ライフ・バランスという言葉が広がり始め、仕事の意味や働き方について新しい考え方がいろいろうまれてきている。育児休業を取れたことに感謝しつつ、大変だけれど娘との楽しい毎日を有意義に過ごしながら、働くことについてゆっくり考えていこうと思っている。