コラム:今日はUmzugがある

 ziehenという語は印欧語の*deuk-(引く、導く)に由来する。多様な語がここから派生しており、繁栄を謳歌していると言える。ラテン語のducere(引く)もその仲間である。これに接頭辞ex-(外へ)が付いてできたのがeducereであり、いくつかある意味の一つが「養育する」である。ここまで来ると英語のeducation(教育)、さらにはドイツ語のerziehen(教育する)やErziehung(教育)までつながってくる。「能力を引きだす」という語源は俗説だそうだが、私などはその解釈で納得している。よい教育を受ければzüchtig(しとやか)になる(この語は今では意味が悪くなっているようである)。

 教育も穏やかなものと厳しいものに分かれ、厳しい方向へいくとzüchtigen(殴って折檻する)になる。名詞Zuchtには飼育、栽培の意味がある。あるとき、勝手な連想でドイツ人にビニールハウスはZuchthausと言うのかと尋ねたところ、そのドイツ人は即座に「んっんー」という声とともににやにやしながら、手でばしっ、ばしっと鞭打つ仕草をして、そういう場所だと言う。辞書を見ると「牢獄、刑務所」とある。もしかしたら拷問部屋のようなイメージもあるのかもしれない。ちなみにビニールハウスは何と言うのかと尋ねると、Gewächshausだと言う。Gewächsはwachsenから派生した名詞で、植物、農産物という意味である。

 ziehenには「引く」という他動詞のほかに、「移動する」という自動詞の用法もある。umziehenは「引っ越す」という意味で、その名詞形はUmzugである。昔、ドイツの田舎の町を訪れたとき、会う人がみな「今日はUmzugがある」と言っていた。おかしいな、こんな小さな町で、同じ日にそんなに多くの引っ越しがあるのかなといぶかしく思っていた。そうしたら、あったのは引っ越しではなく、お祭りだった。接頭辞umは「交換」だけでなく、「(周りを)ぐるりと」の意味もある。動詞umziehenに「歩き回る、練り歩く」という意味は見当たらないが、名詞形Umzugには「祭りの行列」という意味もあった。「今日はUmzugがある」という言葉が耳にこびりついて離れない。

執筆者:工藤康弘