工藤教授執筆の新コラムを掲載しました。Den Rest(残り)という男性名詞4格の形にまつわる日常会話の妙味についてのコラムです。ぜひご一読ください。
コラム:Den Rest
「てにをは」を使いこなして複雑な格表示をしている日本人が、ドイツ語の格変化に悩まされている。他方ドイツ語に慣れてくると、英語にとまどいを覚えることが多くなる。on the deskという表現に出会うと、机に向かって動いているのか、すでに机の上に置かれているのか判断がつかず、いらいらしてくる。
ドイツ語の格変化の妙味とでもいうものを味わった体験がある。在外研究でハイデルベルクに滞在中、毎日のように資料をせっせとコピーしていた。大学の近所にあるコピーショップで、プリペイドカードを買い足し買い足ししながら利用していた。帰国する日が近づいてきたので、これ以上カードを買っても余ってしまうと思い、店員さんに「残りは現金で払います」(Den Rest bezahle ich bar)と言うつもりでDen Rest(残りは)と言ったところ、店員さんは続けてgebe ich Ihnen(あなたにあげます)と言った。おまけしてくれるというのである。Den Restという4格(対格)形を引き取って、すぐさま私の意図とは別の表現に切り替えた会話の醍醐味に感激したのである。
執筆者:工藤康弘