ドイツ語の授業では他動詞、自動詞という言葉を頻繁に使うのだが、学生の反応はいまいちである。あえて動詞をこのように二大別する必要はないのかもしれないが、受動態の話になると、俄然他動詞と自動詞の違いを意識せざるを得なくなる。
ドイツ語で受動態の1格主語になれるのは、能動態の4格目的語だけである。したがって4格目的語のない自動詞を受動態にすると、1格主語のない文になる。Man tanzt heute.(人は今日踊る)を受動態にすると、Heute wird getanzt.となる(manはそもそも重要でないことがわかる)。「今日踊られる」つまり「今日、ダンスパーティーがある」という意味である。
Man arbeitet heute nicht.はHeute wird nicht gearbeitet.となる。「今日は働かれない」つまり「今日は休みだ」という意味である。こんなへんてこな文、本当にあるのかな。授業で教えるたび半信半疑になる。ところがハイデルベルク大学の掲示板にHeute Abend wird getanzt.とあるのを見つけた。「今晩踊られる」、つまりダンスパーティの案内である。時間や場所まで書いてある。やっぱり言うんだ。
受動態は言語によって共通している部分と、ある言語特有の部分がある。日本語で「今晩踊られる」とは言わない。他方、日本語の受動態は被害や迷惑を被る場合が多いと聞く。「雨に降られた」「子供に泣きつかれた」などがそうであろうか。あるとき、試しにドイツ人に次のように言ってみた:Heute wurde ich vom Regen geregnet.「今日、雨に降られてしまいました。」そのドイツ人はアッハッハと笑った。笑ったということは、通じたということである。「何のこっちゃ?」ときょとんとされたらどうしようと思っていた。
ドイツ人は別れ際にも、おもしろそうにその表現を口にしていた。どこか印象的だったのだろう。いつか、次のように言ってみようか:Heute wurde ich vom Kind geweint.「今日、子供に泣きつかれました。」
執筆者:工藤康弘