ドイツにおける移民資料センター博物館(DOMiD)は、ケルンにある移民資料の展示室です。現在はケルン市エーレンフェルト地区庁舎4階に、主に廊下の壁スペースを利用した展示を行っていますが、2029年には新たに取得した用地に本格的な博物館をオープンする予定とのことでした。また、オンライン上にヴァーチャル博物館をドイツ語と英語の2言語でたちあげてもいます。15000点を超える資料を収集しており、研究者に対しては、事前に申し込めば、資料の閲覧などの調査活動も可能だそうです。(アーカイブについてはこちら)



ウェブサイトには、センターの歴史が詳細に書かれています。これによれば、1990年に、トルコからドイツへの移民が立ち上げた”DOMiT” The DocumentationCenter and Museum of Migration from Turkey (トルコからの移民資料センター博物館)というNPOが前身となっています。当時はドイツの博物館も歴史家も、移民の経験や遺産になんの関心も払っていなかったが、トルコからの移民がドイツに到着し始めてから30年ほどが経ち、その記録を残すとともに、ドイツ全体をカバーした移民博物館を設立したいという目標が当初からあったそうです。DOMiTは2000年にエッセンからケルンに移転し、2007年には、ドイツにおける移民博物館という、移民史を扱う中央博物館の実現を目指す組織と合併して、トルコ以外からの移民にも射程を広げることとなり、名称をすでによく知られていたDOMiTの名前を生かし、ドイツ語でDokumentationszentrum und Museum über die Migration in Deuschlandの頭文字を取って、DOMiDの名称になったそうです。
今回は、市庁舎4階の展示を見に行きました。市庁舎に入り、DOMiDを訪問したいと伝えると、エレベーターをで上がるように指示されました。ガラスのドアは閉まっていましたが、ブザーを押すと、スタッフが出てきて歓迎してくれました。フロアにはたくさんの部屋がオフィスとして使われており、廊下の壁には、展示物がずらっと並んでいました。展示物がはっきり分かる写真の撮影は遠慮してほしいとのことだったので、全体像が分かるような写真のみをとりました。
訪問前は、ウェブサイトを見て、トルコ人移民を中心とする史料収集がスタートだったこという記述を見ていたことや、これまでドイツへ移民した「ガストアルバイター」としてトルコ人移民を扱った研究や映画を見る機会が多かったため、トルコ人に関する資料が中心なのかと思っていました。しかし、上記の歴史からも分かるように、現在はドイツ全体の移民史を射程とする博物館を準備していることもあって、非常に多様な移民の歴史が描かれていました。1980年代のベトナムから東ドイツへの移民、ガーナからイギリスを経てドイツに留学した女性東欧からドイツに「帰還」したドイツ系の人々、1960年代にドイツに移住した1万人以上の韓国人看護師たち、そしてアフリカやシリアからの難民などのストーリーがありました。展示は写真パネルと物品をセットにしており、故郷の言葉でニュースや音楽を聴いたラジオ、作業に使った手袋などの道具、難民としてドイツに向かう途中に子どもたちが拾った貝殻、ドイツで働く両親が祖父母のところに残してきた子どもに送ったカセットテープなどが印象に残っています。現時点ではパネルの説明はドイツ語のみだったため、Google translater を使って読みましたが、2029年には多言語対応がなされるのではないかと期待しています。
最後にはじめに対応してくれた人と少し話すことができました。日本でも移民博物館の設立が増えていること、特に在日コリアンの博物館が京都や大阪にでき、今は神戸でも準備が進んでいること、などを伝えたところ、韓国人看護師がドイツに来ていた経緯があり、韓国の博物館とは交流があるが、日本にそのような博物館があることは知らなかったと驚かれました(仁川の「韓国移民史博物館」には確かに韓国からドイツへの看護師の移住について展示がありました)。彼以外にもオフィスで働いている研究者がいるようだったので、何人いるのか尋ねると、20名が働いているとのことで、今度はこちらが財政的にそれだけの人を雇用できることに驚いたのですが、「30年以上かかっている、以前はここも財政的には大変だったのだ」と答えてくれました。2029年のオープンも楽しみですし、これからウェブ上の豊富な資料や解説を読み込みたいと思います。