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双性イオン型ポリマーによる生体機能界面の構築

 我々は生体環境において最も理想的な界面は細胞膜によって作られていると考えMPCを一成分とするポリマーバイオマテリアルの設計を検討しています.MPCは細胞膜を構成するリン脂質と同じ極性基を有するメタクリル酸エステル(モノマー)であり,典型的なラジカル重合でポリマー化でき,天然のリン脂質分子では不可能な材料化を進めることができます.
 ここでは、最近実施している光を利用したユニークな表面設計についてふたつの例を紹介します.ひとつ目は、可視光線を用いたゲル薄膜の調製です.これにはチロシン残基を担持したMPCポリマー(PMM:図a)を用いました.このポリマーを触媒とともに水に溶かした水溶液を調製しまます。この水溶液に15秒ほど光を照射するとチロシン残基が架橋してゲルが形成されます(図b).我々はこの水溶液内にさらにタンパク質を加え、固体基板上に被覆し、光を当てることにより、位置特異的に基板上にタンパク質を固定することに成功しました[1].この技術を用いると複数種のタンパク質をプリントすることやタンパク質の生理活性や分子認識特性を利用したセンサチップの作成も可能になります.
 ふたつ目は耐久性に優れた高潤滑表面の調製です.MPCポリマーをブラシ状にグラフトした表面が高い潤滑性を示すことが明らかにされ、現在では人工関節の摺動面の表面処理にも利用されています.このブラシの耐久性は基板の材質よっても異なり、近年整形外科領域で注目されているPEEKの表面では耐荷重特性を高める工夫が求められます.我々は図cに示すベンゾフェノン基を持つ双性イオン型ビニルモノマーを合成しました. このモノマーをMPCに少量混ぜ、PEEK表面に光グラフトすると、ブラシ状のポリマーさに適度な架橋構造が形成されます.これにより耐摩擦特性が格段に改善されることを明らかにしました[2].また,図cのホモポリマーは長期安定な親水表面を構築するために利用できます[3].

図a.PMMの構造

図b.可視光照射によるゲルの調製

図c.光反応性双性イオン型モノマー

骨治療用ポリマー医薬の開発

   高齢化が世界的に進行している状況において,人々が活気ある自立した生活をおくるために,医療・健康に関わる技術革新は必至であり,とりわけ安全かつ確かな医療器具や医薬品の開発は重要な課題と言えます.加齢にともない著しく増加するのが骨の疾患であり,特に骨粗鬆症は国民病とも言え,その患者数はわが国でおよそ1千万人(総人口の10%弱)に達しており,70歳を超えると約半数に症状が認められます.現在,骨粗鬆症の治療にはカルシウム薬や骨の代謝回転を調節する骨吸収抑制剤および骨形成促進剤など種々の薬剤が用いられています.これらの薬剤を用いることにより,骨密度の低下を遅延する効果が認められているものの,副作用や投与期間の制限など改善すべき点も報告されており,より安全な骨粗鬆症治療薬の開発が求められています.我々はある種のポリリン酸エステル(PPE: 図d)が骨に対し親和性を示すことを見出しました.現在,PPEに薬剤を担持したプロドラッグの調製やPPEの生理活性に関する調査を進め,新たな骨粗鬆症治療薬の開発に向けた研究を展開しています(PPE: 図e) [4-6].

図d.PPEの構造
図e.骨に結合するPPE

生細胞表面修飾

 細胞膜は細胞が外部環境と異なる状態を維持するための隔壁として働くと同時に複雑な生体環境においても的確に特定の分子を認識すること可能にしています.このような細胞膜の構造や機能は生体内で持続的に使用できる医療用デバイスや標的指向性に優れた薬物輸送システム,また,再生医療に有用なマテリアルを獲得するための手本になることは言うまでもなく,すでに細胞膜の構造を模倣したマテリアルの開発が進められています.しかし,細胞膜は極めて複雑かつ多くの要素から構成されているため、膜構造を忠実に再現する方法は未だ確立されていません.一方,近年における細胞資源の充実化や培養技術の進歩によって,診断・治療・創薬への直接的な細胞利用が本格的に検討されるようになっています.このようなアプローチは、細胞本来の高度な生物機能を利用した治療やデバイスの創出につながると注目されています.
 我々はReuterやBertozziらによって見出された糖鎖改変技術(Metabolic glycoengineering) に倣い,メタクリロイル基を生きた動物細胞の表面に誘導することに成功しました [7].さらに,光活性化チオール-エン反応を利用し,細胞表面に様々な分子を修飾できることを明らかにしました.最近ではマクロファージに核酸アプタマーを修飾し,癌細胞を高効率で捕捉することを実現しました(図f) [8].現在、免疫治療への展開や細胞が産生する物質の材料化を進め,高機能なバイオマテリアルの創出を目指しています [9].

図f.表面改質マクロファージによる癌細胞の捕捉