(2) 金属ナノ粒子・微粒子の合成と電子部品部材への応用

a)金属ナノ粒子ベースの低温焼成型導電ペースト(高分子フィルム基材用)

現在の主流である銀ナノペースト(銀ナノ粒子の分散液)は基板に印刷後、150℃以下で低温加熱するだけで容易に導電性膜を形成することができます。しかし、銀を使用する場合、マイグレーション(配線の欠落)の懸念やコストの問題があります。そこで、近年、プリンタブルエレクトロニクス分野における電子回路、接合材料の銀の代替材料として、銅が期待されています。しかし、銅ナノペーストを構成する銅ナノ粒子は大気下で酸化されやすいため、銀ナノ粒子と同じように焼成することができません。表面が酸化された銅ナノ粒子は、効率よく銅に還元し焼結させるため、銅ナノペーストによる導電性パターンを形成するには、ギ酸や水などの還元雰囲気下、窒素等の不活性雰囲気下で焼成を行う必要があります。

上記問題を克服するため、当グループでは、メタラサイクル安定機構を有する短鎖アルカノールアミンで保護されたシングルナノサイズ(約2-5nm)の銅ナノ粒子の合成法の開発に成功しました。この銅ナノ粒子から調製される銅ナノペーストは,100℃以下で低温焼結でき、10-5Ωcmオーダーの低抵抗率な銅膜を与えることを見出しました。焼結過程で生じる酸化生成物(カルボン酸化合物)が銅膜の高分子フィルム(PETやポリイミド)への密着性や銅膜の耐酸化性を向上させることを見出しました。

図:メタラサイクル安定機構を有する短鎖アルカノールアミンで保護されたシングルナノサイズ(約2-5nm)の銅ナノ粒子

<発表論文>
(Cu系)
Kawasaki et al. Chem. Commun. 47, 7740 (2011)
Hokita et al.  ACS Appl. Mater. Interfaces  7, 19382 (2015)
Sugiyama et al. J. Mater. Sci.: Mater. Electron  27, 7540(2016)
Akiyama et al. Adv. Eng. Mater. DOI: 10.1002/adem.201700259
Kanzaki et al. ACS Appl. Mater. Interfaces  9, 20852 (2017)
Kuroda et al. Colloid and Interface Science Communications 31, 100187(2019)
[Review]Tomotoshi et al. Nanomaterials 10, 1689 (2020)
[Cu/Ni]Tomotoshi et al. ACS Appl. Mater. Interfaces 13, 20906(2021)
[Cu/Co]Sakaida et al. Mater. Lett., 136238(2024)

(Ag系)
Keller et al. Mater. Lett., 284,128937(2021)
Saita et al. Nanomaterials, 12, 2004(2022)

b)銅塩ベースの低温焼成型銅ペースト(紙・布基材用)

近年,プリンテッドエレクトロニクスの応用として、紙を基材とするペーパーエレクトロニクスが,原材料の供給安定性,持続可能な社会の維持に有効あると期待されています。
当グループでは,ペーパーエレクトロニクス用途を指向して,紙上での導電性銅膜や配線を形成できる銅ペーストの研究を行っています。銅アミン錯体と銅フレーク(扁平形マイクロ粒子)を混合した混合インクが、セルロース紙基板上で良好な導電性を示す銅膜を与えることを見出しました。

図:紙上での導電性銅膜や配線を形成できるハイブリット型の銅ペースト

<発表論文>
Kawaguch et al. J. Coating Sci. Technol. 3, 56(2016)
Kawaguch et al. Mater. Chem.  Phys. 197, 87(2017)
Sakurai et al. Royal Society Open Science  5, 172417 (2018)
Sakurai et al. J. Mater. Sci. Mater. Electron 30, 12130 (2019)