子どももおとなも個々人が尊重され、属性や状況に関わらず安心して暮らすことができる、支え合える人や場とつながりながら、各々の個性や力を発揮できる、そんな福祉社会の実現に資することを目指して研究に取り組んでいます。

 私の研究における立ち位置は、ゼミのテーマにあげている通り「ローカル(地域)」と「グローバル」の2つです。

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LOCAL

「ローカル」とは、地域や現場実践を起点に、つまりは“本人”、地域で生きる“当事者”(と呼ばれる個々の人生の主役)を中心に考えることです。本人がエンパワーされ、人やサポートとつながり支え合える、また安心して声をあげることができ、多様な形で社会参加できるための環境や仕組みが極めて大事だと考えています。

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GLOBAL

「グローバル」とは、世界の中での日本の立ち位置を示し、諸外国での経験・知見を適切に日本に伝えて参照できるようにすることです。私の研究フィールドであるスウェーデン(を含む北欧諸国)をはじめ、世界各国の歴史を翻っても、社会福祉は決して国家主導ではなく、各国において当事者、市民の声、実践や運動が牽引しながら一歩ずつ発展してきました。 21世紀の今日の福祉はもちろん、法制度に基づく政府の公的責任が大前提であり、不足する資源の拡充、支援アプローチの変革も求められています。同時に、「政府・市場・家族・市民社会」と多元的な観点で捉えることが一層不可欠です。地域社会や福祉実践の現場と、制度政策・理論をつなぐような形、また諸外国の情報を適切に伝える形で、研究を通して日本の社会福祉に少しでも貢献したいと願っています。


最近の主な研究テーマ

2022~2023年度

子どもアドボカシー

 現在、「子どもの意見表明を支援するアドボカシーセンター創出のためのアクションリサーチ」(代表:堀政嗣、科研挑戦的研究(萌芽))に参画しています。また、子どもアドボカシーの実践と学術研究のプラットフォームである「子どもアドボカシー学会」(https://adv-kenkyukai.jimdofree.com/)に積極的に参画しています。既に経験・知見のある諸外国から学ぶべく、2022年夏には、ユース・NPOなどの実践者・大学の研究者らの15名程でイギリスとスウェーデンへの海外視察を行いました。報告書は写真が多数で楽しく読みやすい形式で、学会HPからご覧になれます。

 なお、子どもアドボカシーとは、権利主体としての子ども・若者自身が声をあげて、自分の人生また広く社会に影響力を及ぼす、大人や社会が子どもの声を聴き(子ども若者の側に立つ代理、マイクとなって)声をあげることをサポートするという理念、実践です。日本では、2023年4月からのこども基本法とこども家庭庁のスタートに伴い、「子どもの声を聴く」「子どもの意見表明」が注目されるようになった段階であり、全国各地、各自治体での取り組みが始まりつつあります。

北欧における子どもの権利

 北欧諸国では今日、「子どもの権利」はごく当然のこととして浸透しています。なぜ、北欧では「子どもの権利」の概念が早期から受け入れられたのか、今日、子どもたちにどのように伝えているのか?北欧各国をフィールドとする仲間と議論しながら、歴史・現在の論点を整理しつつ、日本に貢献できる知見を提示できるよう探究しています。関西大学若手研究者育成経費に採択され、2023年度はスウェーデンにおける子どもの権利概念の浸透について調査研究します。

地域における子ども・家庭への在宅型支援

 数多くの親子が、様々な困難を抱えながら地域の中で暮らしています。各家庭内でのしんどさが見えにくい、孤立状態にあり周囲から気づかれにくい、公的制度の狭間にある状態等の事情が絡み合っており、特に日本では実質的なサポートが極めて不足しています。

 社会的養護には至らなくとも、困難を抱える親子への「在宅型」「予防型」の大幅拡充は急務です。現場で見聞きする状況、また国際比較でみる日本の対応の遅れへの気付きから強い問題意識を抱き、本テーマに取り組んでいます。 科研基盤C「スウェーデンにおける要支援の子ども・家庭への在宅型サービス」(代表:吉岡洋子)で、スウェーデンを中心に諸外国の実際を調査しています。また、日本では、親子への伴走型支援を行っているNPOの現場に参画させて頂いており、スタッフの方々と共にアクション・リサーチを開始しました。

高齢者介護の労働とマネジメント

 介護労働の国際比較研究に加わる中で、介護分野の課題解決に向けて、キャリア形成やマネジメントの視点に着目するようになりました。日本の高齢者介護現場のスタッフの声を聞いたり、スウェーデンにおける介護専門職のマネジメントや養成体系について調査を行ったりしています。2023年2月には、スウェーデンのコミューン行政、高齢者介護の施設長・事務長、研究者などにヒアリングを行いました(科研基盤B「介護の「境界関係」における裁量的判断と実践に関する国際比較研究」(代表:石黒暢))。