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研究テーマ

動作と感情の相関関係に迫り、人間の本能に訴えかけるロボットを創る

総合情報学部

ヒューマンロボットインタラクション研究室

米澤 朋子 教授

ロボットの研究分野といえば、一般的には「より最先端の、より便利なロボットを創る」ことを思い浮かべる方も多いかもしれません。
しかしながら、関西大学には「ロボットの本能・感情」といったトピックをメインテーマに掲げる米澤朋子教授がおり、学生と共にロボットの動作と感情の相関関係に迫り、人間の本能に訴えかける、情念を持ったロボットの研究を行っています。

例えば、人間は焦りや恐怖によって、生理現象として手汗をかいたり鳥肌が立ったりします。それならば、ロボットがそういった生理現象を感情と結び付けて理解できると、人に安心や優しさを感じさせられるのではないか?
米澤教授は人の本能的な心と、触れ合いのコミュニケーションを通して、「長く寄り添うパートナー」の開発に取り組む、日本でも数少ない分野の研究者です。


音楽が好きで、授業中は居眠りをしていた生徒が、研究者になるまで

ユニークな思考でロボット研究に打ち込む米澤先生は、最初から研究者を志していたわけではありません。

高校時代は、授業中は教科書を積み上げて寝ているような生徒で、一般の方が考えるステレオタイプの秀才とは異なる学生だったそうです。
ただし、音楽というクリエイティビティなものにのめり込んでいた影響からか、ふとした時に「心ってどういう風になっているんだろう」「この物に心があったらどうなるんだろう」と考えるようになりました。
この想いが現在の研究の原点であり、認知的な脳のプロセスや感情の動きに興味を持つきっかけです。

大学に入ると、全ての科目に対して真面目に取り組むというよりは、やりたいことだけは誰よりも真面目にやる学生だった米澤先生。学校のイベントがある時は、その時に興味があるものを自分で作って出展したり、ゼミの課題も人とは違う点に注目していたそうです。

そんな米澤先生が大学生時代に衝撃を受けたのは、熱帯魚をパソコンの中に飼うソフトウェアです。今ではアプリなどで同じような物があるかと思いますが、当時は画面の中に、一つひとつの生命があることが魅力的で新鮮でした。
このソフトウェアとの出会いや、高校時代から考えていた「心はどうなっているのか?」といった想いなどが積み重なり、漠然と研究に携わりたいなと思うように。

そんな学生時代に経験した、研究所でのインターンシップに米澤先生は衝撃を受けます。
研究所内での研究展示は、米澤先生にとって驚きと発見の連続!
「こんな面白いことが、仕事になるんだ!」と、それからはより具体的に研究者の道を志すことに。

研究は、「やらなくてはいけないこと」より、「何が面白いか」を考えると今でも毎日楽しいです。しかし、アイデアが枯渇してきたらしんどいですし、自らの思考といった主体性が問われるため、誰かに何かを言われて動くより疲れると思います。

ただし、自分で思考して新しいものを生み出していく人でないと、この先社会に出た時に、生きづらくなると思います。私は、「自分で考えたものをカタチにする」といった経験や感覚を身につけてから社会に出て欲しいので、学生さんには「研究って面白いよ。一緒に研究しようよ!」と伝えたいですね。


人の心を動かす、情念のあるロボットを創る

米澤教授の研究トピックは、VR・AR系やSNSを使ったテキストコミュニケーションなど多岐に渡ります。そういったツールを使って、高齢者や障がい者との交流システムや、病院などでどのように活用できるかを考え取り組んでいます。

このように幅広い研究内容ですが、中でも一番特徴的であるのは、「本能的な人間の感情をロボットにも身につけさせる研究」です。身体と脳が繋がっているような、本能的感情を持った存在を創り出すことで、今のロボットとは違い、ロボット自らの感情で人間との真実の結びつきを誘導させる取り組みです。

ロボットなどをつくる過程はプログラミング的な思考で、どんな働きが人の心に訴えるのかを数センチ、数ミリ単位で考えます。
編み物で例えると、どういうぬいぐるみでどんな人に大切にして欲しいのかを考え、「これが一番人の心に訴える。だからこんなデザインにしよう」と計画していくのが、ものづくりの楽しさです。

例えば、クマのぬいぐるみ型のロボットがあるとして、人が「本当に自分は大事にされている」と感じるためには、ロボットが作用したら良いのか。
今あるロボットは、クマが人間の腕をなでたりして、愛情を示してくれるものもありますが、これはロボットが主体的に考えて行っている動作ではなく、プログラミングされた中で、受動的に行っている動作に過ぎません。

ですが「大事にされている」という気持ちは、人が本能で感じるものです。
『本能』というと色々な感情がありますが、「パートナーが欲しい」「大事にできる子どもが欲しい」「真実味のある怒りで、本当にダメなことを止めてくれる」といった人の望み(本能)をロボットで実現するためには、喜怒哀楽や倫理観といった部分をロボットに教えないといけませんし、人間にもそういった本能があることを前提に、相互作用させていく必要があります。

具体的な一例を挙げますと、怖い映画を見ている時に、横にいるロボットが本当に怖がっていると、自分の恐怖も大きくなります。このように共感し合って感情の動きが増幅する効果を創り出せれば、ただ受動的に動作をするロボットではなく、人と心と心を通わせた、本当の意味でのパートナーとなれるロボットが生まれます。

ロボットに感情や本能を入れるには、「人間が快適になるようにシステムが動けば良いロボット」ではなく、「嫌なものは嫌と言ってくる心のあるロボット」を目指していく必要があります。
ロボットに心を持たせるということは、人間の思い通りにはならないこともあるのです。
このような、ロボットに心を持たせる分野の研究は、世界的にもまだまだ設計段階であり、今後の発展が期待される分野でもあります


情念を持った真実味のあるパートナーを生み出したい

現在、ベーシックに研究されているロボットは、人工知能をどれだけ発達させても、身体感情が繋がって温かい心を持つといった点には重きを置かれていません。

逆に米澤教授は、パーフェクトなロボットを作るのではなく、本能や身体、そして感情の連携を考えることを研究の主としたいと考えています。ロボットが人に執着したり、ロボットも自分の不快な領域があったりと、本能と欲と意識をピックアップしたロボットができれば、私たちの暮らしにもポジティブな変化をもたらすのではないでしょうか。

ただし、すぐに役立つ研究も必要です。
高齢者問題においてもケアしている人が足りないことから、バーチャル空間や相互モーターの動きで「今日はお風呂どうですか?」と優しく触ってコミュニケーションをしたり、夜中に起きてしまったら、再入眠を促すように触れてあげたりするような研究も行なっています。


米澤教授が行っている研究分野は、ロボット研究の中でもニッチで、
まだまだ研究者も少ない分野ですが、これからの人々の暮らしには欠かせない分野です。
関西大学には、米澤教授の他にも素晴らしいロボット研究の先生がいらっしゃいますので、
みんなで協力して、何か皆さんがあっと驚くものを発表していけるように、日々研究に励んでいます。


研究テーマ紹介ムービー

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