THEME

研究テーマ

人間に元々ある倫理観を遺伝子として学習させて、本当の意味で賢いロボットを創成する。

総合情報学部

ヒューマンロボットインタラクション研究室

荻野正樹 教授

認知ロボティクスをメインとして研究する荻野教授は、「賢いロボットを創りたい」と想いを語ります。人間の赤ちゃんは何もわからない。しかし、ヒーローと悪役がハッキリとしている人形劇を赤ちゃんに見せた後に、「どっちの方が好きか?」と聞いたらヒーローを指差します。ここから分かるのは、人間は赤ちゃんの時から倫理観を備えていること。
つまり、「倫理観を持った賢いロボットを生み出すことができれば、もっと人間と仲良くできるのではないか」という想いで研究しているのです。


共感ロボットとの優しい世界と、最新の遠隔技術

「本当の意味で共感できる友達ロボット」をつくることが理想と語る荻野先生。
今のロボットは共感を示すことはできますが、本当に共感している訳ではありません。「こういう時はこうしなさい」とプログラムされて、「涙を流していたら声をかける」といったように、『パターン認識の通りに動く=共感を示す』というのが現状です。

しかし、パターン認識で動いていると、円滑にコミュニケーションができない時もあります。
例えば、幼い子どもが物を運んでいる最中に、障害に出くわして詰まっていたら、人間なら子どもが困っていることを感じて、無意識に障害物を取り除くことができますが、ロボットにはそのようなイレギュラーな動きはできません。

プログラムされたルールに従って動いていると、必ずルールでは対処できないことが起こってきます。そういった時に、人間のように「自分だったらこうする」という能力が、ロボットに備われば良いなと考えています。
つまり、『パターン認識の枠を超えて、「この人にとって良いことをしてあげよう」と思う倫理観を持ち合わしているのが賢いロボット』であり、それが研究課題だと荻野教授は語ります。

共感能力をつくるには、感情モデルを用意し、「こういう時は、ポジティブな気持ちになるのだろうな」と、ロボット自身が判断できるように導きます。また、叩かれるといったネガティブになるようなモデルもロボットに学習させ、人が自然に持っているポジティブ・ネガティブ両面の共感能力を育んでいきます。


遠隔操作ロボットで、世界的規模の働き方改革を

荻野教授が取り組んでいるのは、ロボットの共感能力についてだけではありません。
離れた場所にあるロボットを、自分の近くにあるかのように操作する「遠隔操作ロボット」にも力を入れています。

途上国で生活している人の中には、出稼ぎ労働で自国から海外に出ていく人が多くいます。
遠隔操作ロボットが一般的になれば、途上国にいながら海外で行っている仕事を遠隔で行うことも可能になるかもしれません。
ただし、ロボットに仕事を任せても、結局人間が作業した方が良いケースもあるでしょう。しかしながら、人間がロボット自体を遠隔操作することで、離れた場所から仕事ができ、こうしたモデルが実現されれば、世界的に働き方が見直されるのです。

「日常生活は自国で、働く時は遠隔で世界中どこでも」が実現すれば、人類の大きな変革となります。


やりたいことを見つけ、好きなことを追求できる環境

荻野教授の研究室では、学生のトピックも研究対象になり、入って来た学生の好きなこと・やりたいことを後押しして研究しています。

学生は、最初は不安な気持ちで研究室を訪れます。ほとんどの学生は、「何がやりたいのか」がわからないまま、漠然と研究室を訪れるので、その不安も無理はありません。
しかし、研究室で時間を過ごすうちに、自分の興味があること、自分が追求したいテーマが浮かび、さらに学生自身の趣向を組み合わせた研究にステップアップすることも。
例えば、ゲームが好きだとしたら、キャラクターがユーザーを面白がらせる動きを考えるなど、ゲームの中でも気になる分野を深掘りし、研究テーマを絞っていきます。

最初は、ロボットと聞くと難しそう、と思っていた学生も、自分の興味や趣向に合わせたテーマが見つかると、そこにロボットのいろいろな技術を紹介し、データ集めや計測など、「何をポイントに研究を進めるのか」を導くことで、研究の面白さに目覚めます。
「好奇心を探求する」という思考の訓練は、実社会に出てからも大いに役立つことでしょう。

関西大学には、ロボット研究だけでもたくさんの先生がいます。
実際、学生に質問をしてみると、「先生のキャラクターと、自分の性格との相性を考えて選びました!」という答える学生が多いのです。
中には、研究内容が決まっていて、特定の先生に師事を仰ぐ学生もいますが、そういった学生は少数派です。
多くの学生は、最初は何となく荻野教授の研究室に入りますが、長く研究すると、難しさの先にあるやりがいや充実感を覚え、研究で得たこれらの感情は自己効力感を高め、その後の社会人としての生活に活かされているそうです。


荻野教授の本音と今後の展望

荻野教授は、子どもの頃からロボット研究を目指していたわけではありませんでした。
「人を救いたい」という想いから医師を志し、その後は生物などの研究に興味を持ち、大学でも生物について学んでいます。
そこで、「人間のメカニズム」や「人間とは何なのか」といった疑問と、子どもの頃から抱いていた「人の役に立ちたい」という想いが合致し、ロボット研究者となった、一風変わった経歴の持ち主です。

このようなバックボーンを持つ荻野教授は、「本音では、社会にロボットがたくさんいるのは良くないと思うこともあります。けれど、どうせ入ってくるなら優しいロボットが入ってきて欲しい。」と語ります。

人間が社会生活を送る上で自然と身に着く「倫理観」。
一方で、受け取った情報を全て受け止め、その情報を蓄積することで反応する現状のAIは、たまに人間がギョッとする発言をすることも。
この差が、まさにパターン認識で学習するAIと人間の違いです。

「こう言われたら、こう返答する」パターン認識ではなく、
「こう言われたら、こう感じる」という倫理観を。

共感できるロボットのメカニズムを追求し、認知モデルをつくることが、荻野教授の大きなテーマとなっています。


「人間とはなにか」を突き詰めた時に行きついた先は、倫理観のある社会生活を送る人々の暮らしでした。
この人間社会にロボットを新たなパートナーとして迎えるならば、
人と同じように思考する、倫理観を持つロボットが必要です。
心のあるロボット、遠隔操作ロボットなど、
荻野教授は人の暮らしに大きな変革をもたらすであろう研究に取り組んでいます。


研究テーマ紹介ムービー

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