そもそもトライボロジーはどのような研究分野なのか?簡単に言うと,接触面に発生する摩擦や摩耗とともに,それらを制御するための技術を取り扱う学問です.
摩擦は人間の生活に欠かせないものですので,身の周りにトライボロジー知識が多く利用されています.公園では,子どもたちが滑り台の斜面を登るのが大好きなはずです(右図).ところで,履いた靴によって,あるいは裸足の時,登りやすさが変わります.それは靴と斜面の間の摩擦が異なるためです.同じように,雨の日にマンホールの上は滑りやすい,ペットボトルを持つ時その中身の量によって握る力が変わってしまうなど,私たち,摩擦のことを直感的に知っているはずです.ちなみに,皆さんよく乗っている自転車では,摩擦・摩耗・潤滑を考えないといけない箇所はいくつですか(文末の図をご参考ください).
そもそもなぜトライボロジーと呼ばれたかと言うと,1966年,英国の教育科学省から出されたJOST報告書では,摩擦・潤滑・摩耗等を含む全領域を記述するために,トライボロジー(tribology)と言う言葉を公式に初めて使われました.ギリシャ語のTRIBOS(摩擦)が由来だそうで,その後は急速にこの分野の正式な学問名なりました.
JOST報告書では,摩擦・摩耗の対策を適切に講じることによって,極めて大きな経済結果(当時英国のGNPの1.3%)が得られると述べられていました.機械の性能劣化,損傷,寿命の原因は75%が表面,接触由来のため,摩擦・摩耗をうまく制御できれば,つまりトライボロジー技術を適切に適用できれば,保守作業の軽減,安心安全の社会に貢献できますし,機械システムのエネルギー効率向上も可能のため,カーボンニュートラルにも貢献できます.
機械は,「外力に抵抗し得る物体の結合からなり,一定の相対運動をなし,外部から与えられたエネルギーを有用な仕事に変形するもの」と定義されています(広辞苑より).相対運動発生すると,摩擦は絶対に発生しますので,トライボロジーは機械にとってなくてはならない存在です.特に機械の最適設計が求められている今の時代では,トライボロジーを考慮すると,今まで実現できない機械の創成は可能になります.
実際に,学術分野の分類を見ていくと,トライボロジーは機械工学の一つ分野となっています.だが,機械工学,物理学,化学,材料工学など幅広い学問技術と深く関わっています.言い換えれば,摩擦や摩耗などのトライボロジー現象を解決するには,一つの学問では不十分であることを意味しています.従って,本研究グループでは,機械分野だけでなく,化学・材料分野の学生の大学院進学も歓迎です.