JKA Report

2024年度 摺動面状態モニタリングシステムの創成 補助事業 成果報告

機械設備は多くの機械要素によって構成されており,これらの機能が劣化することで故障に至る。故障の約75%は表面および接触部に起因するとされており,機械要素の表面損傷を早期に診断・保全することは極めて重要な課題である。一方,専門人材の不足により,機械設備の状態を自動的に監視し,異常を検知するモニタリングシステムへの需要が高まっている。本事業では,機械設備における異常兆候を自動的に検出することで,熟練技術者不足による設備診断上の課題を補完し,問題の早期発見および迅速な対応を支援するシステムの構築を目指した。

本事業では,機械要素の中でも広く使用されている軸受に着目した。AE(Acoustic Emission)センサおよび加速度センサから取得したセンシングデータと,軸受の摩擦係数ならびに損傷モードとの相関関係を明らかにするとともに,機械学習を用いた軸受損傷状態の予測モデルを構築することを目的とした。

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完了報告概要(2026年4月)

本事業により得られた研究成果を以下に示す。

1)スラスト軸受に関する研究

無潤滑およびグリース潤滑条件下でスラスト軸受の寿命試験を実施し,摩擦係数,AE信号,表面損傷挙動を解析した。無潤滑条件では,凝着摩耗からアブレシブ摩耗,焼付きへ進展する過程を確認し,AE周波数ピークとの対応関係を明らかにした。一方,潤滑条件下ではAE信号が摩擦係数より早期に異常を検出し,グリース膜状態の評価にも有効であることを示した。

2)ラジアル軸受に関する研究

ラジアル軸受を対象に寿命試験を行い,摩擦係数,加速度信号,AE信号を同時計測した。その結果,摩擦係数は損傷を最も早期に検出する指標であったが,実機での直接計測は困難であることを確認した。AE解析では,イベントカウント数およびAEエネルギーが早期損傷検知に有効であり,周波数特性から凝着摩耗やアブレシブ摩耗などの損傷モードを推定可能であることを示した。

3)樹脂保持器を用いた転がり軸受の寿命実験

無潤滑条件下で樹脂製保持器付き転がり軸受の寿命試験を実施し,AE信号,加速度信号,表面状態を解析した。摩擦係数がほぼ一定である一方,AE振幅および加速度が増加する特異な挙動を確認した。表面観察およびSEM/EDS分析により,樹脂由来の転移膜の形成・剥離が信号上昇の主因であることを明らかにし,AE信号による転移膜挙動のモニタリング可能性を示した。

4)電気接触を伴う軸受のモニタリング

EV環境を想定し,通電条件下で転がり軸受の寿命試験を実施した。摩擦係数は比較的安定していたが,AE振幅および加速度は約1100分以降に増加し,損傷進展を示唆した。表面観察では電食特有のリッジマークが確認され,AE周波数解析では0.06 MHz付近に特徴的なピーク増加が見られた。さらに電圧上昇とAE振幅増加が対応し,AE信号による電食損傷検出の可能性を示した。

5)機械学習による摩擦係数および表面状態の予測

AE信号を用いた摩擦係数予測および表面状態推定を目的として,Autoformerによる時系列予測モデルを構築した。AE信号からRMS値,イベントカウント数,スペクトルエネルギーなどを抽出し,フィルタ処理後にモデルへ入力した。その結果,摩擦係数の変動傾向を高精度に予測し,MSE 0.0006746,MAE 0.0207を達成した。また,AE信号と顕微鏡画像を対応付けた摩耗画像生成モデルの基礎も構築した。

6)軸受故障診断のための機械学習モデルの構築

実摩耗進展過程で取得したAE信号を用いて,軸受状態を「正常」「初期損傷」「損傷進展」の三段階に分類する故障診断モデルを構築した。AEイベントカウント数および周波数帯域別AEエネルギーを特徴量とし,FCNNにより分類を行った結果,平均約85.5%の分類精度を達成した。特に正常状態と損傷進展状態は高精度に分類でき,AEベース機械学習手法が実摩耗条件下の故障診断に有効であることを示した。

謝辞:本研究は,公益財団法人JKA(競輪)の補助を受けて実施した。ここに記して謝意を表する。

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第3期報告概要(2025年10月)

樹脂製保持器付き軸受および電気接触を伴う転がり軸受を対象として寿命試験を実施し,AE信号,加速度信号,摩擦係数,および表面状態との関係を解析した。樹脂製保持器付き軸受では,AE振幅増加が樹脂由来の転移膜の形成・剥離挙動に起因することを明らかにした。また,通電条件下では,AE信号とともにリッジマークなどの電食損傷が確認され,AE信号による電食検知の可能性を示した。さらに,Autoformerベースの機械学習モデルを構築し,AE特徴量から摩擦係数変動を高精度に予測可能であることを示した。

謝辞:本研究は,公益財団法人JKA(競輪)の補助を受けて実施した。ここに記して謝意を表する。

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第2期報告概要(2025年4月)

スラスト軸受および転がり軸受を対象に寿命試験を実施し,摩擦係数,加速度信号,AE信号との関係を解析した。潤滑されたスラスト軸受では,AE信号のピーク周波数が時間経過とともに変化し,グリース分布状態と密接に関係することを明らかにした。また,転がり軸受では,AE信号が微細損傷に対して高感度であることを確認した。AE周波数解析の結果,0.034 MHz付近のピークが凝着摩耗に対応し,高周波成分がアブレシブ摩耗や焼付きと関連することを示した。さらに,AEイベントカウント数およびAEエネルギーが早期損傷検知に有効であることを確認した。

謝辞:本研究は,公益財団法人JKA(競輪)の補助を受けて実施した。ここに記して謝意を表する。

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第1報告概要(2024年10月)

スラスト軸受(51105)の寿命試験を実施し,摩擦係数,温度,AE信号を同時計測した。無潤滑条件では約800 s以降に摩擦係数が急上昇し,軸受寿命に達したことを確認した。一方,グリース潤滑条件では寿命が大幅に延長され,AE信号が摩擦係数より早期に異常を検知可能であることを示した。さらに,AE周波数解析により,凝着摩耗,アブレシブ摩耗,焼付きに対応する特徴的周波数成分を明らかにした。また,AEイベントカウント数およびピーク強度が,表面損傷の早期検知に有効な特徴量であることを確認した。

謝辞:本研究は,公益財団法人JKA(競輪)の補助を受けて実施した。ここに記して謝意を表する。