2018年度前川財団家庭・地域教育研究助成 「子どもと地域住民が協働で創る防災学習の開発的実証研究」

研究代表者: 山住勝広
プロジェクト期間: 2018年10月-2019年7月

目的と目標

本研究の目的は、1995年の阪神・淡路大震災で激甚な被害を受けた地域のひとつである神戸市の新長田地区において、中間組織であるNPOとともに専門家集団と連携し、地域の小学生・中学生と住民たちが協働して創り出す防災学習の実践開発を進め、その実施プロセスに関する詳細なデータを収集・分析して、地域共生社会の実現に向けた新しい教育活動の創生可能性を明らかにすることにある。
そのため、第1の目標として、従来の定型的で受動的な避難訓練を超えるような防災教育の創造をめざし、子どもと地域住民が主導的に生み出す防災学習の活動をデザインしていく。そこでは、地域のNPOが地元の自治会に呼びかけて企画する教育活動として、大学の建築学研究室によって制作された震災前の街の復元模型を活用した防災学習について検討し、地元公立小学校・中学校の子どもたちと地域住民が対話を通して協働的に創り出す「防災・減災まちづくりワークショップ」のプログラムを開発する。
目標の第2は、一連のワークショップのプロセスについて、参与観察を通した詳細なデータ収集とその分析を行い、子どもと地域住民のどのようなコミュニケーションと学び合いが生み出されているのかを明らかにすることにある。
第3の目標は、以上の成果を総合し、子どもと地域住民が主体となる新たな防災学習を、共生社会の実現に向けた地域教育の創生としてモデル化し、社会的に提言することである。

 

計画と方法

次のような三つのフェーズから成る方法により研究を進める計画である。
【フェーズ1:開発】2018年10月〜2018年12月
神戸市の生涯学習施設「ふたば学舎」を運営管理する特定非営利活動法人ふたばの職員である研究分担者とともに、1995年阪神・淡路大震災の被災地だった神戸・新長田地区において、地域の公立小学校・中学校の子どもたちと住民が協働して主導的に創り出す防災学習の活動をデザインする。そのさい、神戸大学の建築学研究室を中心に設立された一般社団法人ふるさとの記憶ラボと協力し、震災前の新長田の街の復元模型を使い、地域の人々の暮らしの中で紡がれてきた記憶をもとに、防災・減災のための未来のまちづくりについて対話を通して学び合うワークショップのプログラムを開発する。
【フェーズ2:実施】2019年1月〜2019年3月
地元自治会と連携し、地域の公立小学校・中学校に呼びかけて、参加者を募集し、ふたば学舎において防災・減災まちづくりワークショップを実施する。そのさい、参与観察を通してワークショプに関する詳細なデータを収集する。
【フェーズ3:分析とモデル化】2019年4月〜2019年7月
ワークショップで生まれた参加者間での対話と学び合いを、防災のために街の記憶を継承しつつ、未来の暮らしの中で人々が新たに結びつき、つながっていく物語を想像する行為ととらえ、分析する。その上で、新しい防災学習をモデル化し、社会的に提言する。

 

助成期間終了後の展望

本研究は、その助成期間終了後に、子どもと住民たちが協働で創る地域防災学習の実践開発とモデル化を通して、共生社会の実現に向けた新しい地域教育の活動を創生する仕組みとあり方について、社会的に意義の大きい成果を提起していく展望をもつものである。
地域に暮らす子どもと住民たちによる防災・減災まちづくりワークショップの舞台である神戸・新長田地区は、1980年代までは商店街が発展し、多様な人々が商店街で生活を共有し、子どもたちを地域で見守ってきた、職住近接の高密な木造住宅地だった。しかし、本地区では、1980年代以降、インナーシティ問題と商店街の衰退という課題を抱えていたところ、1995年に震災に見舞われ、その後の大規模な復興再開発事業によって、地域の分断がさらに加速的に進行することになる。このように、日本のインナーシティ地域が共通して直面している、人々のつながりの喪失という現代的な課題に対し、本研究は、人々の暮らしの重なりと共有を取り戻す取り組みと、子どもたちの新たな地域教育の実践とを境界横断的に融合・結合した解決策を提示していこうとするものであり、地域共生社会の実現に向けた教育活動の創生にとってきわめて大きな意義を有するものと考えられる。
なお、本研究の成果については、全国学会や国際シンポジウムで発表するとともに、書籍の出版や英文の国際誌への論文投稿によって、国内外で積極的に発表していくことを計画している。