研究内容


 化学と生物の技術的な融合によって新しいマテリアルテクノロジーの創製し、未知な生物現象の解明や生物活性の能動的な制御を目指します。
金属・セラミックス・高分子のみならず、生体の細胞や組織など、バイオマテリアルに利用できうるあらゆるマテリアルを対象に“細胞外環境の模倣”を基本戦略として研究に取り組んでいます。
[キーワード]
生体分子(ペプチド・タンパク質・多糖類など)
医用材料(高分子・セラミックス・金属・生体組織など)
遺伝子組換え技術、界面化学、細胞や生体組織の機能解析
バイオマテリアル、人工臓器、組織工学(再生医工学)

 ヒトの体を構成する約250種類、3.72×1013個 (Ann. Human Biol., 40(2013))の細胞は、細胞外の分子群(細胞外マトリクス)に接着しながら周辺環境を感知して多様な機能を発現している。この生体内の細胞外環境を模倣(真似)するマテリアル技術は、細胞や生体の機能制御の有力なツールとなる。
もちろん、人工臓器や組織再生工学などの先端医療の基盤となるバイオマテリアル(生体材料)開発の大きな課題である生体反応(組織の治癒、再生、炎症や免疫)の自在な制御にも繋がる重要なテクノロジーとなる。

 

ハイブリッド型人工血管[国循・大阪医大との共同研究]


 延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)は中・小口径の人工血管の素材として40年以上にわたって利用されている。近年は、ヘパリン固定化など様々な工夫が施されているものの、未だに小口径で長期間開存する人工血管は存在しない。
そこで我々は、ePTFEと血管内膜を構成する細胞とのハイブリッド型人工血管の開発を目指している。ePTFEは化学的に安定な撥水性高分子であり、細胞を接着しにくい特徴がある。我々は、アミノ酸のチロシンの酸化を介して生じるキノン(イガイの接着機構を模倣)を利用し、ePTFEにリガンドペプチドを固定化することに成功しており、この技術を活用して”特定の細胞のみ接着する”ePTFE界面の構築を検討している。

 

 

 

骨組織再生用スキャホールド[企業・大阪医大との共同研究]


 骨再生用スキャホールドや骨固定デバイスにはチタン(金属)、PEEK(高分子)やリン酸三カルシウム(セラミックス)などが研究されている。それぞれ適材適所での利用が検討されているものの、強度、加工性、力学的特性、生体内分解吸収性や骨再生性の全ての要件を満たす万能な骨再生・固定用デバイスは開発されていない。
我々は、唯一の生体内分解吸収性金属材料である純マグネシウム(Mg)に注目し、純Mg多孔質体へのグリコサミノグリカンを固定化による骨再生性の付与を試みている。

 

 

 

 

 

バイオイナートな生体分子[ポーランド科学アカデミーとの共同研究]


 ポリエチレングリコール(PEG)に代表される親水性高分子は、タンパク質、血小板、細胞やバクテリアなどの付着を抑制(アンチファウリング)するための表面修飾分子として広く研究されてきた。医用デバイスの修飾分子としては、分解・代謝および免疫反応の観点から、このような合成高分子よりも生体分子の方が生体への負担が小さいと予想される。実際に、近年はPEGの免疫原性も懸念されている。
我々は、コラーゲンの骨格構造を模倣した新しいアンチファウリング生体分子の設計を目指している。コラーゲンは主要細胞外マトリクスタンパク質であり、細胞膜レセプターが認識する生理活性配列(リガンド)と高次構造を形成するための骨格配列で構成されている。この骨格配列部分がリガンド-レセプター相互作用を邪魔していない。つまり、細胞は骨格配列を認識できないということを逆手に取って、コラーゲン骨格様配列(Gly-Pro-Hyp)nをさらにモデル化したオリゴプロリン((Pro)n)がアンチファウリング特性を示すであろうという仮説のもと、その機能を解析している。

 

人工細胞外マトリクスの生合成(遺伝子組換え)


 ウシやブタ由来のコラーゲンやゼラチンは、優れた生理活性を有していることから組織工学用スキャホールド素材として広く研究されている。しかし、動物由来タンパク質は生物学的危険性が懸念され、かつその生理活性は制御が難しくロット間でばらつくなど課題もあり、代替えできる合成材料の開発が望まれている。
我々は、人工細胞外マトリクスの開発を指向し、遺伝子組換え技術を用いて化学的な方法では合成が不可能な高分子量人工コラーゲンの生合成に挑戦している。現在は、主に大腸菌を用いて、コラーゲン様タンパク質である(Gly-Pro-Pro)nを大量合成するための条件検討(可溶性画分への発現など)を検討している。

 

 

その他の研究(鋭意模索中)

・ 骨粗鬆症の予防再生治療を志向した骨再生用デバイス
・ 脱細胞化生体組織を利用した細胞培養ならびに生体様組織の構築[国循との共同研究]
・ 骨再生と血管新生を同時に促進するキメラタンパク質の生合成
・ アミノ酸分析法による微量吸着タンパク質の絶対量の定量[産総研との共同研究]

 

共同研究先

・ 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター研究所 生体医工学部
・ Institute of Metallurgy and Materials Science, Polish Academy of Sciences
・ 大阪医科大学 整形外科学教室 / 大学院・創薬医学教室
・ 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 物質計測標準研究部門
・ その他、企業など