エネルギー環境・化学工学科の学び


私たちの暮らす「まち」が健全に成り立っていくためには、エネルギーが安定に供給されること生活環境がクリーンに保たれることがその大前提になっています。このような中で、石油の供給不足が21世紀半ばに現実となろうとしています。原子力や天然ガスといったエネルギー源だけではなく、これらに石炭、太陽光等の一次エネルギー、さらに水素などの新エネルギーを加えた上で、最適なエネルギーの組み合わせを考えて工業生産を行っていくことが重要です。

一方で人類は、20世紀以来石炭や石油を大量に消費し、大気・水質・土壌を汚染してきました。その結果、身近には住環境、広くには地球環境の悪化や破壊が進行しました。このような負の遺産を解消するとともに、環境に優しい新しい生産システムを構築していくことが必要不可欠となっています。

本学科では、省エネルギーやバイオマス、水素などの新エネルギー、環境修復、環境汚染防止など念頭に置きつつ、「化学工学(Chemical Engineering)」を基盤とした科目を中心に学びます。1年次から多くの実験・演習を課し、身に付けた実践的な知識・技術を生かして環境負荷の少ない新システムを構築できる人材を育成します。

学科のキーワードは、「化学工学」です。エネルギー問題や環境問題の解決に向けて、たとえば、エネルギーの削減、二酸化炭素の排出抑制、廃棄物の削減、資源のリサイクル、汚染水や汚染土壌の浄化、環境負荷の低減などに貢献できる強力なツールとして認知されています。

高校の化学では、化学工学という言葉は耳にしないと思います。化学(Chemistry)では、物質の構造や性質、物質が変化する化学反応を扱います。実験室で新発見された物質を工場で実生産する場合、化学の視点だけではなく、「化学的生産のための工学」が同時に必要です。たとえば、反応装置以外にも、加熱や冷却、輸送、生産システムの設計や運転などの考え方が重要となります。化学工学は、地球環境に配慮しながら低コストで安全な大量生産を可能にする、いわゆる「環境に優しい」生産技術を目指す学問と言えます。

化学工学(Chemical Engineering)とは


「物質」「エネルギー」「機械」「情報」「プロセス」も扱う総合工学

化学工学は、現象や操作を定量的に捉えることによって、様々な生産装置や装置の集合体である生産プロセスを設計、運転、建設するための理論と技術に基づいています。具体的には、物理化学、反応工学、分離工学、移動現象論、伝熱工学、流体工学、プロセス設計・制御、装置設計などを基礎とした学問分野として構成されています。

化学工学は二十世紀に入ってから石油精製や石油化学産業とともに興りました。その後、繊維や鉄鋼・非鉄金属、食品、医薬、エレクトロニクスなど、多岐にわたる製造プロセスへと応用範囲が広がりました。それと同時に、公害・環境問題への貢献、バイオテクノロジーやナノテクノロジーとの融合へと進展しています。

従って、化学工学はあらゆる課題をシステムとそれを構成する要素から成る構造体として捉え、分析や共通性を見出し、最適な解を見出す手法であると捉えることもできます。そのため、化学工学は、対象とする系の大きさや物質の種類を超えて応用ができる学問体系であるともいえます。化学工学を習得したケミカルエンジニアは、ナノスケールの事象から地球環境にわたる広範な課題を解決する能力を身につけ、幅広い業種で社会に貢献しています。

エネルギー・環境と化学工学との関わり


より良いエネルギー開発と利用を考えます。

生ゴミなどからエネルギーを作り出す「バイオマス」、限りある化石エネルギーを効率よく利用する「省エネ」など、環境への負荷を抑えるエネルギー開発や利用について学びます。

Case1 限られた資源の有効活用

石油や石炭などのエネルギーをこれまで以上に有効利用するための技術や、天然ガスを化学変換する技術など、限られた資源の有効活用に関する技術を学びます。

Case2 クリーンな未来型エネルギーの開発

木くずや生ゴミなど捨てるものを再利用してエネルギー化する「バイオマス」や、発電・燃焼時に環境を汚染しない「水素」などクリーンなエネルギー開発に取り組んでいます。

Case3 エネルギーを有効利用する技術

燃料の熱エネルギーを利用して発電システムを作動させ、その排熱を利用してお湯を沸かす「コジェネレーション」のように、効率的な熱の利用法を考えています。

地球をきれいにする技術を身に着けます。

地球温暖化のような環境問題を解決するためには、環境を汚染する物質を出さない技術や、すでに排出された環境汚染物質を除去・無害化する技術を工学的な立場から学びます。

Case1 ゴミを削減する技術

廃棄物を資源化する循環型の社会をめざして、食品廃棄物からエネルギーや有用な成分を抽出するための技術開発に取り組んで行きます。

Case2 環境汚染の原因をストップする方法

有害なガスをその場で無害化する技術や、二酸化炭素を分離・回収する技術や有価物へ転換する技術、工場や車、一般家庭から環境汚染物質が排出しないようにする研究を進めています。

Case3 汚染された環境をキレイにする技術

汚染された自然をキレイな状態に戻すことを目的に、オゾンや光触媒による水の浄化処理、大気中の汚染粒子をナノテクノロジーで回収する方法などを考えています。

都市鉱山リサイクル」に関するトピックスです。東京オリンピックのメダルは、使用済み製品からリサイクルされた金、銀、銅から製作されました。廃棄物中の微量な金を高純度で分離・回収することが求められます。さらには、金を回収した後、残った有害物を確実に分離・除去する必要があります。このような一連の「分離プロセス」を考える上で、化学工学の「分離工学」が威力を発揮します。この方法を「実装置化」するためには、「反応工学」や「化学プラント設計」などが役に立ちます。

資源循環工学研究室では、化学工学の考え方に基づいた新しい金の分離・回収プロセスの開発に挑戦しています。その中で、酸などに溶けている複数の金属イオンの中から、熱や電気を使わずに、ろ過によって金だけを固体粒子として分離・回収する方法を見出しました。この研究成果は、低環境負荷で画期的な金のリサイクル技術につながる可能性があります。化学工学が資源リサイクルの分野にも貢献できるという一例です。

沿革


エネルギー・環境工学科は、全身の化学工学科から数えて半世紀以上の歴史を刻んできました。その間、一貫して化学工学に基づいた教育・研究を行い、時代の要請に応じながらケミカルエンジニアを育成し、社会に輩出しています。

1958年 工学部設置 化学工学科発足

2007年 工学部をシステム理工学部、環境都市工学部、化学生命工学部に改組

     エネルギー・環境工学科発足

2021年 学びの幅を広げるため「エネルギー工学コース」と「環境化学コース」を統合

2022年 エネルギー環境・化学工学科に改称予定