稲田グループ

 稲田グループでは、環境に優しい次世代のデバイスを目指し、「半導体あるいは金属ナノ粒子の光・電子物性」と「光デバイス」についての研究を行っています。
 基礎研究では,半導体や金属ナノ粒子の光物性・ナノ物性を解明することによって、新しいデバイスへの応用を目指します。また、金属ナノ粒子(クラスター)の磁気特性の研究にも取り組んでいます。パルスレーザーを用いたフォトルミネッセンス測定、ソースメジャーユニットやロックインアンプを用いた電気伝導測定、SQUIDやHall素子を用いた磁気特性測定など、一般的な試料特性評価に加え、走査型プローブ顕微鏡による試料表面の局所物性評価にもチャレンジしています。
 デバイス研究では、材料と装置を用いて実際に光デバイスを作製し、特性評価を行います。これまでに、 ①有機EL素子などの発光デバイス(電気⇒光) ②太陽電池などの受光デバイス(光⇒電気) ③エレクトロクロミック素子などの光制御デバイス(電気で光を制御)を作製しました。また、近年では金ナノクラスターの発光を利用したタンパク質センサーや磁性ナノ粒子を医療利用(ハイパーサーミア)する研究にも取り組んでいます。

金属ナノ粒子、ナノクラスターが示す特異な性質の解明と応用

 金属ナノクラスターとは原子が数個~数十個の金属原子の集合体を指し、その大きさは1nm程度である。金属ナノクラスターは、量子サイズ効果により離散的なエネルギー構造を持つため、発光特性や触媒作用など応用上有用な性質を持つ。また、構成する原子の数により発光波長を変化させることが出来るため、様々なデバイスへの応用が期待されている。本研究室では、毒性が低く化学的に安定で高い発光量子効率を持つ金ナノクラスターに注目し、種々の保護剤に修飾された様々な原子個数のナノクラスターを作製して、その光学特性や磁気特性について調査している。近年は特にナノクラスター集合体について、ナノクラスター間の距離や配置と物性の相関についての研究に取り組んでいる。
 また、金属ナノ粒子は局所表面プラズモンによる電場増強効果を利用したセンサーやデバイスが研究されている。本研究室ではナノクラスターとナノ粒子の複合材料を作製して高効率医用センサーやデバイス材料の開発に取り組んでいる。

・有機EL素子における発光効率の向上

 有機EL素子は、面発光であり影が出にくいなどの理由から、ディスプレイや医療現場での照明に期待が寄せられている。しかし、現状では有機EL素子の発光効率は低く、実用化はあまり進んでいない。そこで本研究では、EL素子の作製条件と有機材料の種類を最適化することによって、発光効率の更なる向上を目指している。(※有機ELとは、電極から注入された電子とホールが発光層で再結合することによって、有機材料が発光する現象である。通常の有機EL素子は、カソード、電子輸送層、発光層、ホール輸送層、アノードから構成される。)

・酸化物半導体を用いたソーラーブラインド型深紫外線センサの作製と評価

 ソーラーブラインド型光検出器(SBPD)は,深紫外線のみを検知し、太陽光を検知しない光センサである。このような光センサは太陽光の有無に左右されずに深紫外光を測定できることから、ボイラーの種火の監視などに用いられてきた。しかしながら、従来のSBPDは真空管やダイヤモンドなどの高価な材料を使用してきたため、より安価な材料でのデバイス実現が期待されてきた。本研究では、バンドギャップが大きく、大気中において安定で、安価な材料の中から結晶形が同じNiOとMgOの混晶であるNixMg1-xOに着目した。Ni0.52Mg0.48Oによりソーラーブラインド波長域である270nmに感度ピークを持つSBPDが実現できた。

・EC特性を示す金属酸化物薄膜の作製と評価

 現在、環境問題や電力事情の観点から節電や省エネルギーへの意識が高まりつつあり、オフィスでは節電や省エネのために空調の設定温度を下げるなどの対策を講じている。しかし、この対策によって仕事をする人の快適性は低下してしまい疲労やストレスの蓄積に直結してしまうという問題点がある。
 そこで本研究では、エレクトロクロミズム(EC)を利用した調光ガラスに注目した。これはガラス上に成膜した薄膜の色を電気的に無色から有色に可逆的に変化させることのできるデバイスである。例えばこのデバイスを建物の窓に使用すると、色を変化させることにより外部の太陽光からの光量や熱入射を調節することができ、照明や空調設備の使用量を減らすことができる。現在の課題として、EC特性を示す酸化タングステン(WO3)薄膜のコントラストが低いという問題点があるため、本研究ではWO3薄膜の最適な作製条件について研究を行っている。