心理学界の端の端にいる村上が言うのもおこがましいのですが,心理学のおもしろさは,生活のほとんどの場面を研究の対象にできることではないかと思います。また,科学の知見に触れると,自分の体験の仕方がちょっと変わることってありますよね。

このページでは,村上の生活を彩るモノ・コトをとりあげ,学術的な観点からそれらを眺めてみます(科学の知見は日進月歩です。以下に紹介する研究が覆されていることもあるかもわかりませんが,あしからずご了承ください)。

日本酒

日本酒が好きです。日本酒そのもののうま味も好きですが,日本酒を介した出会いの場も好きで,過去には,「日本酒を嗜む会」を企画していました。『利き酒師』の取得を考えたこともあります(そこまでなかなか手が回らない…)。

お酒の科学の研究助成制度や研究機関(日本酒学センター酒類総合研究所)も存在しますし,同僚の菅村先生とは,「そのうち『酒道心理学』の研究をやりましょう」なんて話を肴にして呑んでいます…。

学術論文の紹介

  • 安いワインに高い値札がつけられるとおいしく感じてしまう(Werner et al., 2021)ように,私たちはお酒の純粋な味にそこまで敏感ではないのかも…。しかし,安い酒でも嫌な気持ちを忘れさせてくれることはあります。特に,自分に厳しい完璧主義者は,ポジティブな感情を抱けない日ほど,気持ちを紛らわせるような飲酒(drinking to cope)をするとか(Richardson et al., 2020)。飲むと身体のバランス感覚は乱れ(木下他, 2016),依存が進むとサイトカインの働きに異常が生じます(Adams et al., 2020)から,飲み過ぎには気をつけたいものです。
  • 日本酒を愛する者として,豊かな自然に感謝し,杜氏さんの仕事に敬意を払う気持ちを大切にしたい。そして,美しい酒器も含めてマインドフルにお酒を味わい(savoring),「呑んでも呑まれない」飲み方を心がける。そんな研究を進めてみたいと思っています。

スパイスカレー

関大前には,古くから伝説的なカレー屋さんがありますが,近年,大阪ではスパイスカレーがブームに。村上も数年前から,自宅に数十種類のスパイスを常備し,「研究」を重ねています(こんなことだから業績が増えない…)。

栄養精神医学(Nutritional Psychiatry)が示すように,私たちの身体やこころは,食べるものから影響を受けます。そのうち,スパイスカレーとメンタルヘルスの関連も調べてみたいなぁ,と思ったり思わなかったり…!

学術論文の紹介

  • 食中毒による感染症の予防に,スパイスが一役かっていることから,暑い国ほど香辛料の使用が盛ん,という言説をきいたことがあるかもしれません。しかし,最近の研究(Bromham et al., 2021)で,スパイスの使用と,気候(環境)との因果関係は実証できなかったようです。
  • 日本の食文化にすっかり馴染んだスパイスカレーですが,純粋に食を楽しむのに加え,健康にも好影響,ということならスプーンも進みます。しかし,スパイス・カレーの効能は,はっきりとわかりません。カレーをよく食べているアジア圏の高齢者は認知症検査の結果が良好(Ng et al., 2006)とか,ターメリック由来のクルクミンを投与された統合失調症患者さんは,脳由来神経栄養因子が改善する(Wynn et al., 2018)とか,興味はつきないのですが…(適正用量等のレビューとしてSharifi-Rad et al., 2020)。また,コリアンダー,レッドペッパー,クミンも欠かせないスパイスですが,これらを投与されたラットの腸内細菌叢には目立った変化はないという知見もあれば(菅原・鈴木, 1997),一定の変化が確認された実験(Xia et al., 2020)もあります。近年,腸内細菌と心理状態の関連が徐々に明らかになっており,スパイスカレーやアチャールが,腸内細菌叢にバランスをもたらし,それによって心も体も健康に!ということがわかると面白いですね。

コンパニオンアニマル

子どもの頃から犬が好きで,言葉を交わさなくとも,一緒にいるだけで心が安らいでいました。現在,ウェルシュコーギー(♂)と一つ屋根の下で暮らしています。

類は友を呼ぶのか,毎年のように,犬好きな学生さんが弊ゼミを希望してくれます。卒論で,表情から犬の感情を読み取る課題(Bloom & Friedman, 2013)を行い,人間に対する共感性や孤独感との関連を研究したゼミ生もいました。また,「イヌの心理」に関する講義は,人気が高い回の一つです。

学術論文の紹介

  • なんとなく,飼い主と犬って似ているように見えますが,どうも,目元が判断の基準になっている(Nakajima, 2013)ようです。また,飼い主と犬の性格も,わずかながらも関連するとか(久須美他, 2021)。「犬は最良の友」なんてことも言われますが,ヒトとイヌの間には,オキシトシン神経系を介した「生物学的な絆」が存在することも明らかにされています(Nagasawa et al., 2015)。目が合ってわしゃわしゃ撫でていると,互いの結びつきが強くなる感じでしょうか。
  • 生まれて8週間くらいの子犬でも,人のジェスチャー(指示)をしっかり読み取れるようです(Bray et al., 2021)。興味深いことに,このような人間の社会的シグナルを読み取ろうとする力の40%以上は,遺伝的要因で説明できるとか。一方,ヒトはヒトで,犬を飼うかどうかに,遺伝的要因が関連することが,スウェーデンの双子研究で示唆されました(Fall et al., 2019)。犬の存在は,ストレスがかかる状況でも,私たちの身心を癒してくれます(Polheber & Matchock, 2014)。しかし,もし,犬を飼うことの向き不向きにも個人差があるのなら,一時の感情に流されず,家族に迎え入れるかどうかをよく考えて判断したほうがよいのかもしれませんね。