公益財団法人JKA 補助事業

補助事業番号  2019M-143

補助事業名   2019年度 宅配便事業者の車両搭載センシングデータを活用した道路舗装の維持管理技術の開発

補助事業者名  関西大学 環境都市工学部 窪田諭


1 研究の概要

 本研究では、もっとも重要な社会インフラである道路の舗装面の状況を効率的に収集し、損傷箇所を発見することを目的として、宅配便事業者の集配車両に加速度センサ、GNSSやカメラのセンサ機器を取り付け、それらから収集するデータを基に、道路損傷箇所を発見する技術開発に取り組んだ。そのために、センサ機器の要求性能、GNSSデータの分析、及び、加速度センサ、GNSS及びカメラのセンサデータの組合せによる道路損傷発見技術の開発を行った。

2 研究の目的と背景

 目的:宅配便事業者の集配車両に道路状況を収集可能な加速度センサ、GNSS、カメラのセンサ機器を設置し、そのデータを地理空間分析して、道路損傷の発見を支援する技術を開発する。そのために解決・確立すべき目的として、次の項目を挙げる。

(1)車両搭載センサに適する機器を選定する。(2)センサ技術を用いた道路維持管理基準を設定する。(3)経過観察により先手管理や予防保全を行う。(4)暗黙知が形式知化され、アラートを発信する基準がある。(5)低コストのICT活用により地方公共団体職員の負担が軽減される。

 背景:最も重要な社会インフラである道路においては、市街地から中山間地域までを対象とし、国道、主要地方道の幹線道路から生活道路まで多様な種別があり、管理上の課題も多種多様である。地方公共団体は、日常から専用車両を用いて、職員自らが道路パトロールを実施し、クラック、ポットホール、陥没等の道路損傷を発見し、補修することが多い。しかし、職員による道路パトロールでは、技術職員不足や交通量増大による路面の急速な老朽化の急速な進展により、その需要に対応できないため、道路損傷箇所を効率的かつ早期に発見することが要求される。

3 研究内容

(1)車両搭載センサの選定実験

 車両に搭載するセンサ機器としてカメラ、GNSS及び加速度センサを対象として、カメラとGNSSセンサとして市販のドライブレコーダを使用することを検討し、そのデータを確認するための基礎実験を行った。

(2)車両搭載センサによるデータ計測実験

 ドライブレコーダによって計測したGNSSデータは1,896、及び、動画データは4,281である。また、研究代表者らの車に設置したスマートフォンのアプリケーションから加速度データを3日間分計測した。さらに、ヤマト運輸の集配車両2台の専用機器(カメラとGNSS)によるデータを取得した。

(3)センサデータによる道路損傷発見技術の開発

①走行網羅率の分析

 車両の走行網羅率を路線数と路線長によって分析した。路線数はリンクを少しでも走行するとカウントし、路線長は走行延長をカウントした。分析の結果、線数と路線長のともに1週間分のデータで80%以上の網羅率があるため、各地域で1週間分のデータがあれば道路損傷箇所を発見するための基となるデータを収集できると考える。

②道路損傷発見技術の研究

 計測データから道路損傷箇所を発見し、その位置情報と時刻を抽出するために、次の3つの方法を考えた。すなわち、方法(1)GNSSデータにより集配車両の特異な動きを確認し、その時刻の動画データにより現場の道路状態を確認する。方法(2)動画データより道路損傷箇所を発見し、その時刻のGNSSデータにより位置を特定する。方法(3)加速度データにより閾値を超える大きな揺れを確認し、その時刻からGNSSデータにより位置を特定するとともに、動画データにより現場の道路状態を確認する。その結果、方法(2)については、動画データからポットホール、クラックや白線の濃淡などの道路損傷箇所を発見することは可能ではある一方で、時間を要するという課題が挙がった。方法(3)については、加速度データから道路損傷箇所として、ポットホールなどの道路の凹凸状態を検出できることがわかった。道路損傷箇所を抽出できると考えられる方法(3)加速度データを用いたシステムを試作した。システムでは、加速度データのZ軸方向の値のみを抜き出し、閾値を超えた時刻を抽出する。その時刻から現場の写真と位置情報を抽出し、道路管理者が閲覧する。

(4)道路維持管理基準の設定

 センシングデータから抽出する道路の不具合レベルを判定し、道路管理者にアラートを知らせるために、道路維持管理基準を検討した。センシングデータから設定可能な項目として、ポットホール、沈下、水溜まり、クラックが挙げられる。また、映像データを解析することにより、側溝のつまり、路肩の舗装剥離、路肩土砂堆積、道路標識の傾き、ガードレールの破損、カーブミラーの傾きを抽出できる可能性がある。

(5)開発技術の評価

 本事業で開発した技術を評価するために、道路構造物の維持管理での活用や安全運転支援への活用の可能性について、道路維持管理専門家との意見交換を行った。道路管理者からは、集配車両により網羅的に収集する位置情報と画像データを維持管理に活用する期待がある一方で、大量のデータを取り扱い、確認する運用面での課題が挙げられた。

4 本研究が実社会にどう活かされるかー展望

 本研究は、基幹道路から生活道路を対象としており、地方公共団体だけでは困難な道路維持管理を効率的かつ高度に実施することに貢献できる。また、道路舗装状態を点検する路面性状調査において応用できる。さらに、データ管理・マネジメント支援は道路損傷の予兆診断サービスとしての需要が有望視されており、本事業により取得する大量のセンシングデータを網羅的に活用することにより、需要が増加する発展性がある。

5 教歴・研究歴の流れにおける今回研究の位置づけ

 研究担当者は、社会基盤施設の運営、防災やまちづくり等における社会的課題に対して、3次元センシング情報の計測と利活用技術を発展させ、それを情報システムに応用して社会実践してきた。今回研究では、宅配便事業者の集配車両にセンサ機器を搭載して、大量データを解析した結果に基づいて活用方策を検討した。これまでの3次元データ基盤に、今回研究による道路維持管理のセンシングデータの計測とその維持管理基準設定への応用研究を付加して、新たな研究領域に発展できる。

6 本研究にかかわる知財・発表論文等

  1. 窪田 諭,西皐太郎,岡村 正,丸山 明,吉田枝里子,中川 均,幸野 茂,渡辺大介:集配車両の映像とGNSSデータを用いた道路舗装維持管理の基礎研究,地理情報システム学会講演論文集,Vol. 28,No. F-1-1,pp. 1-4,2019.10.
  2. 西皐太郎,窪田 諭,木下広翼,畑 亮輔:宅配車両のセンシングデータによる道路維持管理のための3次元データの検討,情報処理学会第82回全国大会,No. 6ZE-2,pp. 4-475-4-476,2020.3.
  3. 木下広翼,西皐太郎,窪田 諭:車両搭載センシングデータを活用した道路舗装の維持管理技術の開発,情報処理学会第82回全国大会,No. 6ZE-3,pp. 4-477-4-478,2020.3.

7 補助事業に係る成果物

(1)補助事業により作成したもの

 該当なし

(2)(1)以外で当事業において作成したもの

①走行網羅率の分析

 社会インフラテック出展ポスター

8 事業内容についての問い合わせ先

所属機関名: 関西大学環境都市工学部(カンサイダイガクカンキョウトシコウガクブ)

住   所: 〒564-8680 大阪府吹田市山手町3-3-35

担 当 者: 教授 窪田 諭(クボタ サトシ)

担当部署: 研究支援・社会連携グループ(ケンキュウシエン・シャカイレンケイグループ)

E-mail: skubota[at]kansai-u.ac.jp
*[at]は*に変更してください。

URL: https://wps.itc.kansai-u.ac.jp/kubota/