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報告者 |
文学研究科 3年次 毛鋼 |
渡航先 |
中国・杭州、寧波(中国絲綢博物館・浙江図書館・良渚文化博物院・杭州博物館・阿育王寺・東アジア文化交渉学会) |
研究活動期間 |
2025年5月9日 ~ 2025年5月16日 |
目的・概要
本調査は、井上靖の歴史文学における「東方」表象を主題とし、その文化的背景を現地資料および遺跡・博物館展示を通して考察することを目的とした。特に『楼蘭』『敦煌』『天平の甍』など、東アジア文化の接点を描いた作品を対象とし、シルクロード文化圏の終点である杭州や、鑑真渡日の出発地である寧波を実地調査した。また、浙江工商大学にて開催された東アジア文化交渉学会に参加し、研究発表の聴講を通じて、近年の国際的な研究動向を把握する機会ともなった。
現地の様子や渡航を通じて感じたこと
杭州は多くの時代において首都として栄えた歴史都市であり、現在も文化的・学術的施設が充実している。中国絲綢博物館では、シルクを媒介とする東西文化交流の実態を視覚的に把握することができた。浙江図書館では西域に関する文献を閲覧し、創作の史実的背景に迫る資料調査を行った。良渚文化博物院では、中国文明の周縁とされてきた新石器時代文化の再評価に触れ、「古代ペンジケント」などで描かれる「失われた文明」との共鳴を実感した。さらに、寧波の阿育王寺では『天平の甍』の鑑真漂着地としての歴史的意義を現地の建築・碑文から再確認し、文学空間と史跡の重なりを検証することができた。
これらを通じて、井上靖の歴史文学は、東西文化の境界における交渉と変容の文学的記録であることを再認識した。博物館や現地の展示・解説を通じて、中国における歴史語りの方法や記憶の再構築のあり方についても、多くの示唆を得た。
今後、海外で研究活動をする関大生へ一言
現地での調査や資料収集は、自身の研究を深化させるだけでなく、異なる文化の中で自分の視点を相対化する貴重な機会となる。特に、文学や歴史を専門とする研究者にとって、現場を歩き、実物を見て、現地の人々と交流することは、作品理解と研究構想に新たな厚みを加えてくれるはずである。臆せず現地に足を運び、多様な視点を積極的に取り入れてほしい。
