報告者
文学研究科 2年次 毛鋼
渡航先
中国西安(大唐芙蓉園・大明宮・陝西省歴史博物館・乾陵・永泰公主墓・華清宮)
研究活動期間
2025年2月12日 ~  2025年2月16日

目的・概要


 本調査は、西安に点在する歴史的遺跡を巡りながら、井上靖の文学作品における唐代描写と現実の歴史遺産の関係を検証することを目的とした。特に『楊貴妃伝』や「永泰公主の首飾り」といった作品の舞台となった大明宮、華清宮、乾陵などを実際に訪れ、井上靖がどのように歴史と虚構を織り交ぜたのかを考察する機会とした。さらに、陝西省歴史博物館では、井上靖が詩を詠んだ文化財保護の現状を確認し、作家の歴史観と現代中国における歴史解釈の違いについての理解を深めることを試みた。

現地の様子や渡航を通じて感じたこと


 西安は、長安の都として繁栄した唐代の面影を残しつつも、近代化が進む都市であった。大唐芙蓉園は、現代中国における「唐代の再現」の象徴とも言え、華やかなライトアップや観光客向けの文化展示が印象的だった。一方で、大明宮遺跡は広大な敷地に発掘途中の遺構が点在し、井上靖が「往古の長安の都を偲ぶにはこれに勝る場所はない」と述べた理由を実感することができた。特に乾陵と永泰公主墓では、石刻や壁画を通じて、井上靖が描いた唐代の宮廷生活がより具体的なイメージとして浮かび上がった。

  現地での調査を通じて、井上靖の作品は単なる歴史小説ではなく、過去の遺産を「現在」に結びつける一種の文学的試みであることを再認識した。彼の描く唐代は、史実に基づきつつも、独自の解釈と創造力によって再構築された世界であり、その点で現代の歴史観とも比較可能であった。また、博物館や遺跡の説明パネルを読むことで、中国における歴史の語り方が日本と異なる点にも気づかされた。

今後、海外で研究活動をする関大生へ一言


 海外での研究活動は、単なる資料収集や遺跡訪問にとどまらず、自分の研究テーマを異なる文化の視点から捉え直す貴重な機会となる。現地の人々との対話を通じて得られる生の情報や、自らの足で歩き、目で見る体験は、机上の研究では得られない気づきをもたらしてくれるだろう。