FUSION+ > トークvol.01

2019年度より新たに始まった、関西大学の研究者が集う異分野交流会「FUSION」。
第1回は千里山キャンパスを皮切りに堺キャンパス、高槻キャンパスでも順次開催された。学内の研究者との交流や知見の交換などを求めて多くの研究者が集い、異分野の研究テーマに触れた。その後、「ぜひこの方と一度話してみたい」と互いに意思表明をした研究者が集い、日ごろ尋ねてみたかったことを思いのままに話していく意見交換会「FUSION+ トーク」を行った。
今回のトークでは「化学」と「法学」を軸としつつ、研究テーマの紹介から成果発信まで様々なフェーズで話が展開した。



薬機法、評価、医療機器

  • 若松陽子(法務研究科 教授)
    キーワード:医事法、研究倫理、民法

  • 上田正人(化学生命工学部 教授)
    キーワード:医療材料、サンゴ再生、電気抵抗率

  • 柿木佐知朗(化学生命工学部 准教授)
    キーワード:バイオマテリアル、ペプチド、タンパク質、細胞評価

関西大学で異分野交流~法学と化学のトーク~

谷(URA)
本日はお集まりいただきましてありがとうございます。まずは、先生方の研究について教えてください。
若松
私は民法を専攻していて、その中でも医事法を専門に扱っています。医療紛争の予防と解決に取り組んでおりますので、私でお役に立てることがあればという思いと現場でのご研究のご苦労などお教え頂きたく、医療系の研究をなさっている先生方にお声がけしました。
上田
私はわりと手広く研究しています。主にはバイオプリンター、インプラント、サンゴの再生、原子レベルの欠陥の観察などです。日ごろ、学部・学科の先生方とはお話しますが、他学部の先生とはなかなかお会いする機会がありません。普段ならあり得ないような分野の先生と繋がることができればと思って、FUSIONに参加しました。
柿木
私は、医療機器に用いることができる材料の研究をしています。ペプチド・タンパク質化学の技術を駆使して、ヒトの体に優しい材料の開発を目指しています。今回、医事法がご専門の先生がFUSIONに参加されるとお聞きして、ぜひ直接お話したいと思いました。製品化を目指すうえで法律は避けて通れませんので、とても心強く感じています。

法学者から聞きたい、化学のこと

若松
上田先生のサンゴの研究について教えてください。サンゴとヒトの骨が似ているとおっしゃっていたと思います。サンゴの再生にインプラントの技術を応用されているということですが、逆に、サンゴの再生に使われた技術がヒトに使われる日もくるのでしょうか。
上田
サンゴとヒトの骨形成が似ているというのは私が勝手に言っているだけです(笑)。今は医学のほうが進んでいますので、骨形成のメカニズムをサンゴの再生に利用する技術が先行していますが、逆にサンゴの再生メカニズムをヒトに適用する日が来るかもしれません。ヒトの骨形成を外から観察することは難しいですが、サンゴなら海の中で再生過程を直接観察できるという利点があります。サンゴを観察する中で何か発見できれば、ヒトに応用することもできるかもしれません。
柿木
ヒトの骨には骨芽細胞と破骨細胞があるのですが、確かサンゴにも骨芽細胞のようなものがあるんですよね。
若松
サンゴとヒトに似ている部分があるというのは、見た目が全く異なるのになんだか不思議ですね。非常に面白い、興味深いお話です。

倫理・法規制の視点から研究活動を語る

若松
先生方が実験されるにあたって、法律や倫理なども絡んできますね。非常にデリケートな部分ではないかと思います。せっかく研究を進めても、論文の執筆や製品化を進める段階になって法的な理由等でダメになってしまうのは非常に残念です。
谷(URA)
研究者の皆さまは「○○を使いたい」というふうに考えて実験に使用されると思います。「○○の材料がヒト由来なのか別の生物由来なのか」というところまで調査することは、時間的にも労力的にもなかなか難しいですよね。
柿木
研究者1人で自分の実験が、法的・倫理的な問題を持っていないかを調査するのは大変ですね。化学者は法律の専門家ではないので、法規制などで知らない部分がどうしても出てきてしまいます。昔に比べれば実験ルールなどもかなり整備されてきていますが、何か重要なことを見落としてしまう可能性もあるでしょう。そのようなときに、法律のプロの目があればとてもありがたいですね。
若松
海外の事情は、いかがでしょうか。
谷(URA)
私がいたアメリカの研究所のケースを申し上げますと、実験計画は年に1回まとめて申請します。目的や理由、生き物を扱う場合はなぜその種でなければならないのかということ、そして実験計画をきちんと書かなければ承認されません。その後は、論文に承認番号を書いて・・・という流れですね。欧州はアメリカより厳しいと聞いています。
柿木
論文の執筆に関する部分は日本と同じですね。今お話を伺っていて思ったのですが、最近は外部に論文を公開する流れになってきていますね。論文の文末に実験に関することを書いていると、情報が外部に出てしまうことになるので、今度は機密保持契約などの点が気になります。企業との共同研究の場合は、そうした部分も気を配らなければいけませんね。
若松
本学には、柿木先生がおっしゃるようなことも含め実験に関する相談ができるような窓口はあるのでしょうか。
柿木
あります。本学では総合的なものというより、案件によって規程や窓口が異なります。
谷(URA)
時には他大学と共同研究をされることもあると思います。その際、倫理的な面に関する意見交換などはされるのでしょうか。
柿木
やはり別組織なので意見交換などは難しいですが、それぞれの組織でしっかり倫理審査を行なったうえで、日々研究を進めています。
若松
私が顧問を務めている学会では、研究の際に必要な申請・手続きなどを可視化したものを作っています。こうしたものがあると、特に若手の研究者の皆さまの手助けになるのではないかと思います。

化学者から聞きたい、法学のこと

上田
私は、企業の方からの共同研究のお話で悩んでしまうときがあります。例えば、ある研究テーマでA社から何年か支援を受けた後、間を空けてB社から支援を受けるチャンスが訪れることもあるかもしれません。そうしたときに、機密保持の点や権利関係などでトラブルにならないだろうか、という漠然とした不安はあります。
若松
そうしたときに、あらかじめ文書が残っていると安心ですね。企業との共同研究ですと、人事異動やトップの交代で研究が頓挫してしまう心配もあるのではと思います。その点も難しいですね。
また、上田先生は細胞シートを扱うこともあると聞きましたが、細胞シートは「生き物」という扱いになるのでしょうか。「細胞」いう名前がつくからには何かの生き物に由来するシートだと思うのですが、生命倫理をどこまで適用するのかが気になるところです。髪の毛などの廃棄するものであれば、あまり気になりませんけれど。
上田
そうですね、私もその点は非常に難しいところだと考えています。私は研究分担者なので主体的に手続きをしたことはないのですが、私が共同研究をしている外部の研究機関・大学では細胞シートを使用する際は何かしらの手続きがあります。今日お話を聞いていて、もし自分が単独で手続きを行うときに漏れなく倫理上の手続きができるかと想像すると、心配になってきました。

今後に向けた“+”な活動

谷(URA)
こういった形での繋がりや共同研究を、今後もやっていけないものでしょうか。何か気軽にアドバイスを受けられるような・・・
若松
そうですね。共同研究でなくともこういった緩い繋がりで良いので、例えば最近の法律の傾向などをお伝えできれば良いと思っています。もちろん、先生方に失礼のない範囲で、ですが。
(一同笑)
柿木
関西大学には法学部がありますので、法律の部分もカバーしていただけるような、法学の先生に気軽にご相談できる機会があるとありがたいと思っています。
若松
そうしたときは何かお力になれることを願っています。本日は、分野の異なる興味深いお話をお聞きすることができ、ありがとうございました。
上田
ありがとうございました。
柿木
ありがとうございました。

(聞き手:谷真紀URA、文・写真:伊木貴子URA、webデザイン:丸野実歩URA)