(1) 脱リグニンとは

植物は主としてセルロース、ヘミセルロース、リグニンからなり、セルロースは鉄筋、ヘミセルロースは鉄筋を束ねる針金、リグニンはその隙間と表面を覆うコンクリートに例えられる。セルロースはグルコースがβ-1,4結合した多糖、ヘミセルロースはキシロース、アラビノースなどの5炭糖、マンノース、ガラクトース、グルコースなどの6炭糖から成る多糖である。リグニンはモノリグノールが不規則重合した複雑な網目構造をもち、酵素を含めた分子量10 k以上の物質は網目を通過することができない。このため、セルロースやヘミセルロースを酵素で糖化するためには、リグニンの障壁を除去する前処理が必要となる。

(2) 既往の脱リグニン法とその問題点

これまでに様々な脱リグニン法が開発されているが()、物理的・化学的な方法はエネルギー消費が大きく、そのコストはエタノール1 Lあたり100円を超えるという試算もある。これに対して、白色腐朽菌を用いる生物的な方法は、エネルギー消費、コスト共に小さいが、処理に月単位の長時間を要し、腐朽菌自身が炭水化物を消費してしまうという課題が残されている。

(3) 現在の研究 -バクテリアによる迅速省エネ高収率の脱リグニン-

当研究室では、水生植物の高速コンポスト化の研究において、2種類の微生物Thermobifida fsucaUreibacillus thermosphaericusコンポスト化反応を再構成することに成功した()。T. fuscaはセルロース資化生の好熱性放線菌であり、U. thermosphaericusはリグニン分解能をもつ好熱性桿菌である。U. thermosphaericusはリグニン分解能をもち()、増殖が早いだけでなく、糖を全く資化しないという特筆すべき性質を持っている。そこで、本菌を用いてバイオマスの迅速省エネ高収率の生物的脱リグニン技術を開発すべく、研究を進めている。これまでに、コーンコブ、バガス、稲ワラなどの草本系バイオマスについて脱リグニン効果を確認しているが、現時点ではその脱リグニン活性は十分ではなく、コスト的にも問題があるため、本菌の能力を向上させる研究を行っている。