(1) セルロースの酵素糖化

セルロースはβ-1,4結合したグルコースからなるポリマーであり、これを分解する酵素は、非結晶領域のセルロースに作用するendo-β-glucanase(EG)、セルロースの還元末端もしくは非還元末端からセロビオース(グルコース2分子がβ-1,4結合した二糖)を切り出すcellobiohydrolase(CBH)、セロビオースを含むセロオリゴ糖をグルコースに分解するβ-glucosidase(BG)の3種に大別される。

(2) セルロース糖化の問題点

セルロースの大部分は、セルロース分子同士が水素結合を形成し、固い結晶構造をとっている。このため、α-1,4結合したグルコースからなるデンプンに比べてその分解には多量の酵素が必要になる。セルロースの結晶性領域は主にCBHによって分解されるが、セルロース単位重量あたりのCBHが攻撃できるサイトは限られ、また、セルロースに吸着したCBHの一部しか実質的には機能していないことが知られている。このため、例え酵素量を増やしても、基質表面が酵素で飽和するとそれ以上糖化速度が上がらなくなってしまう。セルロースの結晶構造をほぐせばこの問題を回避できるが、「ほぐす」ことはセルロース分子の間に水が入ることを意味し、セルロース濃度の低下、得られる糖液濃度の低下、得られるエタノール濃度の低下につながり、ひいては蒸留コスト(エネルギー)の増加につながってしまう。

(3) 現在の研究 -セルロースの低コスト迅速糖化-

高濃度のセルロースを、迅速に、少ない酵素量で糖化することは、蒸留コスト、設備コスト、運転コストの低減につながる。本研究室で開発した、バイオマスの糖化と発酵を同時に行うCCSSFは、反応槽が一つで済み、酵母がすぐに生産物を資化するので糖化酵素に対する生産物阻害が回避でき、さらに、バイオマスを繰り返し投入することによって酵素コストを低減できる。また、CCSSFにおいては、水分が少なく酵素は基質と空間的に近接していることを利用して、セルロースの糖化効率を上げる研究、固体発酵に適したセルラーゼを著量生産する微生物の探索を行っている。