(1) バイオエタノールをとりまく状況

バイオマスは再生可能でカーボンニュートラルな(炭酸ガスの増加を伴わない)資源であり、化石資源を子孫のために温存し、地球温暖化を防止するために、その有効利用は急務となっている。中でも、持ち運びが可能な燃料であり、化学繊維などの原料にもなるエタノールは、世界中でその生産方法が研究されている。ブラジルではサトウキビを原料として1984年には既に年間1000万kL以上のエタノールが生産されており、アメリカでも主としてトウモロコシを原料として実生産が行われ、その生産量は2000年以降急増している()。しかし、トウモロコシなど可食部を原料とするエタノール生産は食糧と競合し、食料品の値上がりや途上国の食糧不足などの問題を生じるため、2008年の洞爺湖サミットで「非食用植物や非可食バイオマスから生産される第二世代バイオ燃料の開発・商業化を加速する」という声明が出された。

(2) バイオエタノール生産における課題

ところで、バイオマスを利用しようとするそもそもの目的は、化石資源の節約にある。従って、エタノールの生産のために投入する化石資源由来のエネルギーは最小限に抑え、エネルギー収支(エタノールとして得られるエネルギー/生産に投入するエネルギー)は1を超えていなければならない。また、その普及のためには、生産コストを100円/L程度に抑えなければならない。
 一般に、生産スケールを大きくするほどエタノールあたりの生産コストと投入エネルギーを低減できるが()、逆に、バイオマスの収集・運搬に要するコストとエネルギーは増大する。ところが、日本の主なバイオマスとして、稲ワラ(利用可能量年間700万トン弱)、林地残材、廃材、剪定くずなど木質系バイオマス(約390万トン)、事業所系厨芥(約447万トン)などがあるが、その排出場所は広範囲に分布し、事業所系厨芥は多種多様である。さらに、稲ワラや木質系バイオマスはかさばり(例えばロールベイラーで収穫した稲ワラの比重は0.1しかない)、事業所系厨芥は高水分含量(70~90%)であるため、単位エタノールあたりの原料輸送に費やすエネルギーは大きくなってしまう。従って、原料の輸送距離を抑えることができ、かつ、多品種に柔軟に対応できる小規模生産であっても、生産に投入するエネルギーとコストを抑えられるシステムの開発が必要である。

また、従来のエタノール発酵は系の8~9割を水が占めており、これは、得られるエタノールの5~10倍の廃水が出ることを意味している()。この廃水の処理には多大なコストとエネルギーが必要であり、更に、残渣や廃水に含まれる窒素、リン酸、カリ、その他微量元素は、バイオマスを収穫した土地に戻さなければ、土地はやせていき、バイオマスを持続的に生産することができない(施肥にはコストがかかるだけでなく、肥料の生産にエネルギーを消費することを忘れてはならない)。残渣や廃水に含まれる元素を農地に戻すのであれば、その輸送に費やすエネルギーとコストも最少でなければならず、この意味においても、省エネ低コストで小規模生産が可能なシステムの開発が必要である。

(3) 現在の研究 -CCSSF Systemの開発-

上述の問題を解決する生産システムとして、脱リグニンしたバイオマスに最小限の水、糖化酵素、酵母を混合し、糖化と発酵を同時に行う(併行複発酵)とともに、生じるエタノールを発酵槽のヘッドスペースから連続的に回収するConsolidated Continuous Solid State Fermentation (CCSSF) Systemの開発を進めている。従来のバイオエタノールの製造工程は、脱リグニンしたバイオマスに水を加え、糖化酵素によって単糖に分解する工程、酵母などの微生物で発酵する工程、エタノールを蒸留回収する工程を別々に行っているのに対して、CCSSF Systemではこれらを統合(consolidate)して同時に行う()。また、従来法では系の80%以上を水が占めるのに対して、CCSSF Systemでは、水分は50~60%に抑え、半固体状で糖化と発酵を行う。さらに、生産されるエタノールは発酵槽のヘッドスペースガスを凝縮塔に循環させることによって連続的に回収する。

ラボスケールのCCSSFシステム()を用い、デンプンの繰り返し発酵を行ったところ()、最終的に消費された165 gのデンプンから87 gのエタノールが得られ、収率は93%であった。槽内エタノール濃度が高まるほど、凝縮塔には高い濃度のエタノールを回収することができるが、エタノールによるダメージで酵母の発酵力が低下するので()、槽内エタノール濃度を最適な値に制御することがポイントである。

CCSSF Systemは以下のような長所を持っている。
1) 小型でシンプル()
  ・維持管理が容易。
  ・既存工場の一角に設置でき、移動式さえ可能。
2) 省エネ()
  ・保温には既存工場などの低温廃熱を利用できる。
  ・凝縮には冬場の外気温が利用できる。
3) 低コスト
  ・設備投資が少ない(直径3 m×長さ6 m程度なら付帯設備を含め、約2億円と試算している)。
  ・原料を繰り返し投入することで、高コストの酵素と酵母を実質的に再利用できる。
4) ゼロエミッション
  ・廃水はほぼゼロ。
  ・残渣の水分も少なく、簡単な後発酵の後、堆肥として農地に還元できる。

平成22年度から、環境省の地球温暖化対策技術開発事業の委託を受け、50 Lスケールの実験装置を製作し、食品廃棄物、事故米、廃綿繊維などからのエタノール生産を検討している。