連想術

「雪」から何を連想しますか?多くの方は,スキー,かまくら,北国,冬・・・などを思い浮かべると思いますが,「紙」とか,「砂糖」を思い浮かべる方はほとんどいないと思います.前者は既に経験や知識によって結びつけられているのに対して,後者は「雪」→「白い」→「紙」,「砂糖」という手順を踏んでいます.発想を広げ,研究を発展させるには,実は,後者の発想が必要になります.この時のコツを理解するために,まず,次の問に答えてみて下さい.

ガラスのコップがあります.このコップの用途を5分間に10以上列挙して下さい.どんな非現実的な用途でも構いません.

どうですか?皆さんはいくつ思いつきましたか?講義で学生にこの質問をすると,多くの学生は数個までしか思い浮かべることができません.そこで,「では,まず,“ガラス”と“コップ”に分解し,それぞれの形状的,物理的,化学的な特徴を挙げてみなさい.」と設問を変えると,多くの学生は,円形,円筒,透明,割れる,固い,など,数個以上の特徴を短時間に挙げることができます.その上で,「ではその特徴のうち一つだけを思い浮かべ,用途を考えなさい.」と問い直すと,それぞれの特徴から,円を描く際のテンプレート,麺棒やコロの代用,レンズ,ナイフ,肩たたき,などの用途を思いつくことができるようになります.

金魚鉢,花瓶,ペン立てなどしか思いつかなかった方は,ガラスのコップの特徴を無意識にたくさん思い浮かべています.同時に多くの特徴を思い浮かべるほど,思い浮かぶ用途はコップ本来の用途に近いものになってしまいます.ある事象から発想を広げる時,その事象の全体をとらえていると,発想は平凡なものになりがちなのです.そこで,まず,その事象の特徴を抽出し,次に,その特徴のうち一つだけを思い浮かべ,そこから連想できるものを探せば,発想の範囲を格段に広げることができます.この時,特徴はできるだけ一般化し,抽象化しておくことが望ましく,抽象化すればするほど,連想は容易になります.冒頭に述べたように,名詞から名詞を連想するには経験と知識が必要ですが,間に特徴(形容詞)を挟めば,全く経験や知識がなくても名詞と名詞を関連づけることができるようになります.

今日の自然科学の研究のほとんどは,既に知られている知見や, 手法の組み合わせによるものであり,研究のオリジナリティはその組み合わせ方にあるといっても過言ではありません.自分の研究の全体をとらえるのではなく,要素に分解すれば,他分野の知見や手法との組み合わせの発見が格段に容易になります.

この発想法は以下のような場面でも応用することができます.全く異分野の人と話をするのは苦手だ,と言う方は,相手と自分の興味の対象の全体をとらえがちです.こんな時はまず,相手の興味の対象を要素に分解し,あなたが面白いと思える要素を探してみましょう(この分解作業は相手にも手伝ってもらいましょう).また,自分の研究内容を学生や非専門家に説明するには分かり易い例え話が必要ですが,この時も,説明したい事象の最も大切な要素を抽出して身近なものの中に共通要素を探してみましょう(あなたが「なるほど」と思った例え話を思い出して分析してみて下さい.対象となる事象の特徴が実にうまく抽出されているはずです).

発想を広げるには特徴(形容詞)を一つ思い浮かべ,そこから連想すれば良いのです.

あなたも実践してみませんか?