研究内容の詳細を一部、以下に示します。

1.ヘッドディスクインターフェースにおけるナノトライボロジー - Nanotribology in Head-Disk Interface –
2.光電子アシストCVD法による化学吸着潤滑膜の開発
3.摩擦発電センサへの応用

タイヤに組込んだ摩擦帯電センサの出力

 

1.ヘッドディスクインターフェースにおけるナノトライボロジー - Nanotribology in Head-Disk Interface –

最近ではノートPCにHDDが入っているのをあまり見かけなくなったが,依然としてHDDはデジタル情報をアーカイブするための主記憶装置として重要な位置を占めている.クラウドデータを保存するデータセンタでは,頻繁にアクセスするデータはSSDで,たまにアクセスするデータはHDDと使い分けられており,今後もHDDの記憶容量の増加が望まれている.

Fig.1には3.5インチHDD当たりの容量の推移を示しているが,2019年には脳の記憶容量である20TByteに匹敵する記憶容量を達成する予測がなされている.

Fig. 1 Trend of recording capacity in a 3.5 inch HDD. (日立GSTホームページ資料に追記)

このような記憶容量の増加には,磁気ヘッドと磁気ディスクの磁気記録再生特性,ヘッドの位置決め精度,信号処理技術のイノベーションのみならず,ヘッドディスクインターフェース(HDI)におけるトライボロジー技術のイノベーションが大きく寄与している.

HDIの概念図をFig. 2に示す.

Fig. 2 Schematics of head-disk interface

現在では,ヘッドに埋め込まれたマイクロヒータを用いてディスクとヘッドのすき間をコントロールすることで浮上量を2nm以下にコントロールしている.さらに,ヘッドとディスクの表面には極薄膜のDLCがコーティングされている.ヘッドスライダ面のDLCの膜厚は約1nmであり,ディスク側は約2nmである.ディスクのDLC表面にはパーフルオロポリエーテル(PFPE)潤滑剤が約1nmの厚みで塗布されている.また,ヘッドとディスクが接触しないためにディスク面の表面粗さはRa0.2nm程度に研磨されている.
また,HDDの内部のコンタミネーションとなるアウトガスや微細パーティクルはヘッドの安定浮上を妨げるため非常に厳しく管理されている.更なる記憶容量の増加に向けて,熱アシスト記録(Heat assisted magnetic recording: HAMR)方式が検討されている.ヘッドに搭載したレーザ素子からのレーザ光はヘッドスライダ面の近接場光トランスデューサーにより近接場光に変換され,ディスク面を400C~500Cに加熱し磁性膜の保持力を低下させる.それと同時に磁気記録を行うことで,熱安定性の高い磁気記録が可能となり,高記録密度化が可能となる.


 

2.光電子アシストCVD法による化学吸着潤滑膜の開発

We developed a new method of using photoelectron-assisted chemical vapor deposition (PACVD) to deposit perfluoropolyether (PFPE) lubricant on a diamond-like carbon (DLC) overcoat. PFPE lubricant in the vapor phase is deposited on the DLC surface of a magnetic disk with a bias voltage between the disk surface and a counter electrode above the disk surface during ultraviolet irradiation. The bias voltage accelerates the photoelectron emission from the DLC surface, and the photoelectrons partially dissociate the PFPE molecules in the vapor phase. The dissociated molecules then chemically bond to the DLC surface. In the experimental results, the PFPE molecules completely chemically bonded to the DLC surface at an approximately 100% bond ratio. An ultrathin PFPE/DLC hybrid overcoat was produced as a monolithic film. This hybrid film exhibited a much lower surface energy than Z-tetraol lubricant film and a high water contact angle of over 100°. This hybrid film can increase the head–media clearance and improve some read/write characteristics by using the actual heads.

Fig. 1 Schematic image of the photoelectron-assisted chemical
vapor deposition (PACVD) process to deposit an ultrathin
PFPE/DLC hybrid overcoat.

 

Fig. 2 Schematic image of the experimental setup. UV light is irradiated to disk surface in the vacuum chamber, and the bias voltage is applied between the grid electrode and disk surface to accelerate the photoelectron emissions from the DLC surface.


 

3.摩擦発電センサへの応用

The contact type of tribocharge power generator was developed. This tribocharge power generator has a simple structure which two types of tribocharging films on electrode are laminated by silicon rubbers. That generated the volume density of electric power of 94µW/cm3 under the condition of 40Hz, 2G, and 55 kPa. As the results, we confirmed that the tribocharge power generator was useful for the energy harvesting and sensing the acceleration.

Fig. 10 Output voltage of tribocharge power generator as a function of acceleration.

 

Fig. 13 Experiment of walking power generation.

 

 

 

タイヤに組込んだ摩擦帯電センサの出力

The output of a tribocharge sensor mounted in the rolling tube tire was studied. This tribocharge sensor has the simple structure consisting of the silicone rubber, cupper electrodes, and two kinds of tribocharge films. The output voltages of tribocharge sensor and the acceleration sensor in rolling tire on the moving belt were compared. The positive output of the acceleration sensor was proportional with the second power of tire rolling speed. On the case of the tribocharge sensor, both of positive and negative pulse signals were observed. The negative pulses were observed at the moment as the sensor entered to the contact patch and the positive pulses were observed at the moment as that exit from the contact patch. Therefore, the tribocharge sensor was a self-generating sensor and generates positive and negative pulses proportional to the tire rolling speed.

 

1.ま え が き

現在では,タイヤ空気圧監視システム(TPMS:Tire Pressure Monitoring System)が広く採用されるようになり,タイヤ空気圧や温度の監視による安全性の向上が図られている.また,路面と唯一接しているタイヤから接地面の情報を収集解析し、路面情報やタイヤの状態を把握するセンシング技術も一部実用化されている(1).すなわち,タイヤと路面の接触状態を検出できれば,タイヤと路面の摩擦力やタイヤの摩耗量をモニタすることが可能となり,自動車の安全性向上に対して極めて有意義であると考えられる. 一方,タイヤと路面の接触状態の検出をタイヤ内部に設置したセンサで行おうとすると,タイヤ内の温湿度環境や振動が過酷な条件となるため,その環境に適したセンサが少なく,あったとしても高価であると推定される.また,モニタした接触状態をタイヤ外部へ送る際にはワイヤレス通信を用いる必要がある.さらに,それらのセンサやワイヤレスユニットを駆動するための電源がタイヤ内部に必要となり,その電源として電池を用いた場合,その交換が極めて面倒なものとなる.
そこで,我々は電源を必要とせず,かつ発電が可能であり,柔軟でシンプルな構造の摩擦帯電センサが,この用途に適していると考えた.本研究では,我々が開発したシリコンゴムベースの摩擦帯電センサをチューブ入りタイヤへ組込み,摩擦帯電センサの出力を加速度センサ出力と比較して,センサの基本的な出力特性を確認した(2)

 

2.実 験 方 法

2.1. 摩擦帯電センサの構造
摩擦帯電センサの構造とタイヤへの組込み状態をFig. 1に示す.

Fig. 1 Schematic of tribocharge sensor and setting up in tire.

 

タイヤは1輪車用のチューブタイヤを用いた.タイヤサイズは3.25-8であり,タイヤ内面とチューブとの間に摩擦帯電センサを挟みこみ,センサからの出力ケーブルをホイール部より引き出した.センサはシリコンゴム上に銅テープを貼り付け電極し,その上にポリウレタン(PU)フィルムを接着し上部帯電エレメントとした.タイヤ側の下部帯電エレメントは銅テープ上に四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)フィルムを接着した.これらの上部下部帯電エレメントをアルミ複合袋へ入れて減圧圧着密封した.センサのサイズは80×50mmである.PUフィルムとFEPフィルムの間の接触帯電現象によって各フィルムは帯電する.さらにセンサがタイヤの変形に伴い変形するため,上部下部エレメント間の接触面積と接触面間の距離が変化する.そのため,電極間に電圧出力としてセンサ信号が観察される.センサ信号はセンサへ加わる圧力やセンサの変形量に応じて変化すると考えられる(3).また,比較のため摩擦帯電センサの代わりに3軸加速度センサを組込みタイヤの回転に伴う接地時の加速度計測も行い,出力波形を比較した.

 

2.2. タイヤ転がり試験
摩擦帯電センサをタイヤに組込み,センサの信号をホイールに取付けたデータロガーによって記録した.
タイヤはFig. 2に示すようにトレッドミル上にリニアブッシュを介して荷重を加え,約2km/h~12km/hの速度で回転させた.

Fig. 2 Schematic of tire rolling test.

 

3.実 験 結 果

3.1. 加速度センサ出力の速度依存性
加速度センサからの半径方向(Z軸)と接線方向(X軸)の出力をFig. 3に示す.

Fig. 3 Acceleration measured by acceleration sensor in tire.

 

タイヤ空気圧は180kPa,荷重は5kgである.図より速度の増加に伴い加速度センサのZ軸方向出力が増加していることが分かる.次に,Z軸方向加速度と速度の関係をFig. 4に示す.

Fig. 4 Acceleration as a function of tire rolling speed.

 

図中の実線は空気圧100kPa,荷重10kgのデータを2次曲線で近似した曲線を示しており,加速度が速度の2乗となっていることが分かる.

 

3.2. 摩擦帯電センサ出力の速度依存性
次に,速度を変化させて摩擦帯電センサ出力を測定した結果をFig. 5に示す.

Fig. 5 Output voltage measured by tribocharge sensor in tire.

 

摩擦発電センサの場合の出力電圧は加速度センサとは異なり,正負のパルス出力として出力される.これは,センサ部分が接地面に達した時に負パルス,離れる時に正パルス信号として観察されるからである.この摩擦帯電センサは電源を必要とせず,数Vの出力があることが分かった.摩擦帯電センサ出力の速度依存性をFig. 6に示す.

Fig. 6 Positive output voltage of tribocharge sensor.

 

4.ま と め

タイヤに組込んだ摩擦帯電センサは,センサへの電源供給を行わなくてもタイヤ回転速度に比例した正負パルス信号を出力することが判明した.加速度センサもタイヤの回転速度の2乗に比例するパルス信号を出力する.このことから,摩擦帯電センサを用いることで加速度センサと同様のタイヤ接地状態検出の可能性があると推定された.

  

謝辞

本研究はJKAオートレース機械振興補助事業の補助を受けて実施しました。厚く感謝いたします.
 

参 考 文 献

(1) ブリジストンニュースリリース,https://www. bridgestone.co.jp/corporate/news/2015112502.html, 2015
(2) 谷弘詞他: タイヤに組込んだ摩擦帯電センサの出力: 自動車技術会秋季大会2018予稿集,セッション番号111
(3) 谷弘詞他:接触型トライボチャージ発電機の開発: トライボロジスト, vol. 63, p.52-59 (2018)