英国滞在記 No.3 雨の国で子どもの居場所を探す

日本を発って、ちょうど一か月が経った。

こちらに着いてからの一か月を振り返ると、事務作業につぐ事務作業だった。賃貸契約に始まり、不良箇所の修理依頼と修理対応、清掃の依頼と実施、残置物の撤去依頼、電気・水道・インターネットの整備、TV Licenceの整理、Council Taxの手続き、保険関係の申請、子どもたちの学校関係の申請、マンチェスター大学とランカスター大学のIT登録、そして最低限生活できる環境の物理的な準備。そこに研究活動も加わるのだから、なかなかどうして、穏やかな「学術休暇」とは言いがたい。

とりわけ、子ども二人を家で見ながら、研究活動を現実のものとして立ち上げていくのは相当に骨が折れる。もちろん、家族で過ごせる時間それ自体は得難いものなのだけれど、現実問題として、時間も体力も際限なくあるわけではない。そこで今回は、いま一番切実な課題の一つである、学校、正確には nursery と reception の申請について記しておきたい。

近隣の就学前施設には、まずメールを送り、その後実際に足を運んで挨拶をし、後日見学に伺った。園自体はとても素晴らしく、職員の方々もたいへん親身に対応してくださった。印象的だったのは、ほとんど毎日雨の降るランカスターの気候に即して、入園の際には防水防寒の服と長靴を必ず用意するよう言われたことである。実際、入口には泥だらけのスキーウェアのような服がずらっと干されていた。浜田の干物を思い出した。

なるほどと思ったのは、そんな天候であっても、子どもたちを毎日外で遊ばせるための工夫が徹底されていたことだ。日本であれば「今日は雨だから室内で」となりそうな日でも、こちらでは雨と付き合いながら外へ出る。飛び入り参加のような形になった我が家の息子たちも、ずいぶん楽しそうに遊んでいた。屋内が土足で、しかもかなり湿っぽく泥のついた床に子どもたちがごろりと寝転んでいる様子には少し驚いたけれど、それもまた、この土地の暮らし方なのだろう。少なくとも私は、ぜひここで子どもを学ばせたいと思った。

ただし、思いと現実は別である。

イングランドでは、3歳から4歳の子どもには原則として年間570時間、通常は週15時間相当の funded childcare が認められている。また、条件を満たす working parents には、9か月から就学前まで30時間相当の支援制度が用意されている。いっぽう2歳児については、追加的支援の対象家庭、あるいは条件を満たす working parents であれば funded hours の対象となりうるが、これは自動的に誰でも使えるものではない。私の現在の条件では、実質的に使えるのは3〜4歳児に対する週15時間枠のみ、という理解で進めている。

この「週15時間」というのは、数字だけ見るとそれなりに思えるけれど、実際の生活に当てはめると、ずいぶん違った姿を見せる。たとえば、子ども二人を週5日、8時30分から17時まで預けようとすれば、補助のない時間帯の費用負担はかなり大きくなる(私の給与で考えると全て使っても足りない)。しかも次男はまだ2歳であり、制度上の対象可能性が広がるとしても学期の切り替わりや空き状況に左右される。制度があることと、実際にその場で使えることのあいだには、なかなか大きな距離がある。

長男のほうは10月で5歳になるため、9月からは義務教育段階の導入にあたる reception に通うことができる見込みである。ランカシャー州では2026年9月入学の primary school 申請はすでに締切後で、締切を過ぎたものは late application として扱われる。私も自治体のサイトからその手続きを進めたところである。

とはいえ、9月まではまだ少し間がある。そこをどう過ごすかという不安は、やはりある。ただ、その一方で、家族四人で24時間をともに過ごすというのは、人生のなかでそう何度もあることではない。日本にいた時から、私は比較的家族と一緒に過ごしてきたほうだとは思う。それでも、ここまで濃密に同じ時間を生きることには、やはり独特の重みと、同時に独特の幸福がある。

再び少し愚痴めいたことを言えば、サバティカルに来れば、いわゆる学術休暇なのだから、もう少し「休」の字に近い時間があるのではないかと、どこかで甘く考えていた。実際には、ほぼ毎日のように何らかのミーティングがあり、気づけばタスクに追われている。昨年の夏頃から、三時間睡眠でも妙に平気だったり、夜中にふと目が覚めて、そのままメールを確認してしまったりする状態が続いていた。これは少しまずいなと思い、心理相談にも通っていた。

だから今回のサバティカルには、研究上の課題だけでなく、生活のリズムを取り戻すという課題もある。夜中に目覚めず眠れるようになること。腰痛に悩まされなくても済むように股割りができるようになること。体重を平均付近まで落とすこと。これらも、この一年の大切な目標である。

外から見れば、在外研究というのは、どこか華やかなものに見えるかもしれない。実際、得難い機会であることは間違いない。けれど、その土台にあるのは、案外こうした生活のこまごまとした立ち上げであり、子どもの居場所を探し、電気や水道をつなぎ、メールを書いて電話をし、泥だらけの服をシンクで洗うことなのだと思う。

焦らず、一歩一歩進んでいきたい。

雨の国での暮らしは、まだ始まったばかり。

(1)Manchester大学: モダンっぽい建物

(2)Manchester大学: 歴史を感じる正門(?)


(3)Manchester大学: 少しでも晴れ間を見せるとみんな日向ぼっこ(服を脱がないこと以外ドイツと一緒)

(4)自宅の周りも自然がいっぱい