日常の延長線上ではじまった英国滞在

2026年3月20日、1年間の在外研究のため、家族4人でイギリスへ渡航した。
19日の卒業式に出席し、直後に関空へ向かっての旅立ちだった。

4歳と2歳を連れての移動は、想像していた以上に骨の折れるものだった。1年間の滞在を考え、預け荷物8つ、手荷物8つ。海外渡航の際には普段はできるだけ荷物を少なくする自分としては大移動だ。空港から空港へ、そして乗り継ぎのたびに荷物と子どもたちを気遣いながら進む道のりは、ある種の「移動」というより、小さなプロジェクトの遂行に近かったように思う。


※機嫌がいい時の息子

聞いていた通り、イギリスの住宅事情は厳しい。早い段階から物件を探し、エージェントともやり取りを重ねてきたが、結局、渡航までに住まいは決まらなかった。住む場所が定まらないままの出国というのは、どこか足場の定まらない感覚を伴う。とはいえ、それもまたこの滞在の一部なのだろうと思うようにしている。

実のところ、この在外研究は着任当時の5年前から密かに構想してきたものである。実現に至ったこと自体は本当に感慨深い。大学や同僚にも、言葉にできないほど感謝している。
しかし同時に、「準備」という点では多くの反省も残る。英語力については、国際学会での発表や論文読解を通じて少しずつ積み上げてきたつもりだったが、到底満足できる状態にはない。研究環境の整備についても同様で、住居が定まらないことに加え、幼子を伴う生活では、日々を回していくだけでも相当のエネルギーを要することが予想される。今のところ、9月から長男はReceptionに通うことができそうだが、次男をNurseryに通わせることは厳しいだろう。日本でも、長男を幼稚園に預けるまで、24時間ほぼ妻と私で自宅にて育児をしてきた。愛とは割くことだと思う。が、若手研究者にとってワークライフバランスを保つというのは不可能に近いように感じている。2022年からは会社経営も行っているのでなおさらである。

それでも、多くの方々のご縁とご配慮のおかげで、4月から6月末まではマンチェスター大学にてAcademic and Affiliate Visitorとして、7月から来年1月末まではランカスター大学にてVisiting Scholarとして研究に携わる機会をいただいた。2月にはオックスフォード大学を訪れる予定である。身分の有無はさておき、こうして複数の世界を代表する教育・研究機関を往還しながら研究できることは、何にも代えがたい機会である。

一昨日、ランカスターに到着し、現在はAirbnbに滞在している。最も安価な宿でも1週間で18万円ほど。円安の現実を、これ以上ないほど具体的に実感している。

※それでも嬉しいバスタブ

※ランカスターの一角。「古都」の情緒たっぷり。

2016年のドイツ留学から、ちょうど10年が経った。あのときは、「外国に来た」という感覚がはっきりとあった。しかし今回は、不思議なほどその実感がない。むしろ、日常の延長線上にそのまま接続されているような感覚がある。外に出るのが億劫だったり、何かに強い新鮮さを感じたりすることも、今のところは全くない。銀行口座の開設も滞りなく完了した。中古車購入は多少チャレンジングだが、きっとできるだろう。

それでも、だからこそだろうか。日々のささやかな気づきを、言葉として残しておきたいと思う。

ドイツ滞在の折には、ヘルダーの『旅日記』にちなみ、journal meiner reise と題して記録を続けていた。今回の英国滞在については、まだふさわしいタイトルを思いついていない。それでも、この円安の時代に、そして厳しさを増す大学の状況のなかで、4人家族でイギリスに「遊ぶ」ように暮らすこの時間を、ひとつの記録として残していこうと思う。

慌ただしくも、静かな始まりである。