(1) 実施内容
① エントロピー計算、CALPHADによる状態図計算等より、添加第5元素の最適組成探索
MnFeCoNi系合金およびCrFeCoNi系合金に対してTi, MoなどのBCC安定化元素を合金させた合金の計算状態図を作成した。ハイエントロピー合金は配置のエントロピーが高くなることで固溶体の形成が優勢になる。また元素の拡散が遅いことから考えられることから、規則相よりも固溶体相に注目した計算条件で実施した。
② 鋳造法を用いた高エントロピー側からの候補合金試作
MnFeCoNi系合金に対してBCC安定化元素であるMoを添加した鋳造材を作製した。CrFeCoNi系合金に対して半金属元素であるSiおよびBCC安定化元素であるMoを添加した鋳造材を作製した。両合金系ともに添加量を変化させて、5通りの試料を作製した。さらに、Mo添加CrFeCoNi合金3種類について鋳造材を熱処理した試料を作製した。
③ メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法を用いた低エントロピー側からの候補合金試作
CrFeCoNi系合金に対してBCC安定化元素であるTiあるいはMoを添加した合金をメカニカルアロイング法で作製した(以下MA材と記す)。MA材を用いて放電プラズマ焼結法で焼結材を作製した。両合金系ともにMA時間を変化させて、それぞれ5通りの条件でそれぞれ複数個の試料を作製した。
④ 鋳造材および焼結材製造による候補合金評価
鋳造材について、金属組織の解析を行った。解析手法には光学顕微鏡観察、SEM、EPMAによる元素分布の解析を行った。また、各試料のXRDパターンを測定し結晶構造の解析を行った。機械的性質の評価として、引張試験を行った。引張時のストロークと荷重を測定し応力と伸びを評価するとともに一部の試料についてはヤング率の測定を行った。
焼結材について、金属組織の解析を行った。解析手法には光学顕微鏡観察、SEM、EPMAによる元素分布の解析を行った。また、各試料のXRDパターンを測定し結晶構造の解析を行った。さらにXRDパターンから格子ひずみ、結晶子サイズ、転位密度の評価を行った。機械的性質の評価としてビッカース硬さ試験とダイナミック微小硬さ試験を行った。ダイナミック微小硬さ試験ではヤング率の算出も行った。
(2) 成 果
① エントロピー計算、CALPHADによる状態図計算等より、添加第5元素の最適組成探索
MnFeCoNi系合金およびCrFeCoNi系合金に対してBCC安定化元素であるTi, Moを添加するとFCC相に固溶する量が推定された。一方で添加量が過剰になるとσ相などの脆化が懸念される相の生成が予測された。
② 鋳造法を用いた高エントロピー側からの候補合金試作
Si添加CrFeCoNi合金の鋳放し材を試作した。添加したSi量に対して鋳造材に含有されたSi量の歩留まりは90%以上であり、概ね狙い通りの化学組成を有する鋳造材が得られた。Mo添加のCrFeCoNi合金あるいはMnFeNoNi合金の鋳放し材を試作した。Si添加合金と同様にMoの歩留まりは90%以上であり狙い通りの鋳造材が得られた。
③ メカニカルアロイング法と放電プラズマ焼結法を用いた低エントロピー側からの候補合金試作
Ti添加CrFeCoNi合金焼結材を作製した。粉末を出発材とした固相プロセスのため、概ね狙い通りの化学組成を有する焼結材が得られたが、メカニカルアロイング時と考えられる炭素の混入もみられた。Moを添加したCrFeCoNi合金焼結は、相対密度約85%と緻密性に劣っていたが、概ね狙い通りの化学組成を有する焼結材が得られた。Ti添加合金と同様炭素の混入がみられた。
④ 鋳造材および焼結材製造による候補合金評価
Si添加CrFeCoNi合金はfcc単相であり機械的性質はSi量の増加とともに向上するが降伏強さは低下することを明らかにした。Si量が過剰になると金属間化合物相の生成が示唆され、そのような合金の機械的性質においては脆化が認められた。Mo添加CrFeCoNi合金およびMnFeCoNi合金では、Mo添加量の増加とともに機械的性質が向上することを明らかにした。さらに熱処理を施した合金の金属組織、結晶構造及び機械的性質を評価した結果、Moリッチの相が低減し、強度と延性がともに向上することを明らかにした。
焼結材について、Ti, Mo添加合金ともMA時間の増加とともに粉末の結晶子サイズが微細化し転位密度が増加することがわかった。それらの粉末を焼結すると、MA時間とともに硬さが増加し、MA20時間で約900HVの硬さで飽和し、焼結体の転位密度と相関があることが示唆された。Ti添加合金ではCoTi2, CrFeの金属間化合物、TiC炭化物が形成し、最大900HVの硬さを示した。Mo添加合金ではMo3Co3C, Mo3Ni3Cの複合炭化物が形成し、最大1000HVの硬さを示した。Ti系、Mo系いずれも粉末は、MA時間とともに結晶子サイズは減少、転位密度は増加し、焼結材では粉末と比較して結晶子サイズは増加、転位密度は減少した。